第拾弐話 魔人 1





 
 一九九六年八月、沖縄、嘉手納基地。



「――よしっ! 出せ!!」

『――了解』

 白衣姿に銀色の仮面を付けた男が機内無線に向かって怒鳴ると、双発の大型輸送ヘリ・チヌークCH47Dはローターの唸りも高らかに、黒煙が棚引く空へと舞い上がった。

 そこに、ギン! ガツン! と銃弾が着弾する音が混じる。――追ってきた兵士が発砲しているのだ。しかし彼らの持つ自動小銃程度では、まずこのヘリを落とすのは不可能だ。

「おのれ、反逆者どもが! 撃て! 殺せ!」

「――不可能です! このヘリに固定武装はありません!」

「ヌウウ〜〜〜ッ! 忌々しい劣等人種ヤンキーどもが! ――早く上昇しろ!」

 銀色の仮面を被った男が怒鳴る。――声の感じからするとかなりの高齢と思われるのだが、きびきびとした動作といい、妙に脂ぎった印象といい、年齢を感じさせない。怒鳴り散らす迫力は、人を威圧する事に慣れた者のそれだ。

 そこに居並ぶ者たちの顔が引き攣ったのは、急速上昇の生む浮遊感覚ではなく、銀仮面の怒声のせいであっただろう。――狭いシートに押し込められているのは、人種も性別も様々な子供達であった。そして銀仮面がよほど恐ろしいのか、皆一様に恐怖の相を浮かべている。

 いや、子供達を恐怖させているものはもう一つあった。

「――過重積載です! 最低でも三〇〇キロは減らさないと高度を取れません!」

「ムウウ〜〜ッ! やむを得ん! サンプルCのコンテナを投棄しろ」

「や、了解ヤー!」

 子供達の顔が更に引き攣る。チヌークの後部ハッチが音を立てて開くや、その隙間から飛び込んできた銃弾が機内を跳ね回ったのだ。そして――彼らの目の前に置かれていたカプセルがロックを解かれ、虚空へと滑り落ちていったのである。

「――まだか!?」

「――まだです! あと――九〇キロ! ――コンテナBを投棄すれば確実に行けます!」

「これ以上サンプルを失う訳にはいかん。――あの実験体には最新型の試薬が投与されているのだ。――ならば・・・」

 銀仮面はベルトを外し、席を立った。

「――ドクターッ!? 何を――!?」

「お前は操縦に集中せい!」

 銀仮面はパラシュート降下時に使用するパイプに命綱を付け、機体左右のシートに着いている子供達を一瞥した。その数――十人。

「――よし。お前とお前・・・そこの二人! ベルトを外せ!」

 銀仮面の言葉は絶対である。機体の揺れが激しい中、指名された子供たちはベルトを外した。すると銀仮面は子供達の襟首をむんずと掴んだ。

「Hey! What do you d…ッッ!」

 銀仮面の指名を免れた金髪の少女が果敢にも抗議の声を上げた途端、銀仮面の平手が少女の頬を激しく打ちのめし、少女はひとたまりもなく気絶した。

「キャアァァッ!」

「ウワァァァッ!」

 子供達が悲鳴を上げる。自分達の運命を知ったのだ。銀仮面は片手に二人づつ子供達を掴んで引きずっていき、ゴミを投げ捨てるような仕草で子供達を虚空へと放り出した。

「ど、ドクター・・・ッ!」

 パイロットとて軍人である。究極的な言い方をすれば、人殺しの訓練をしている人間だ。そして多額の報酬と引き換えに同胞に背を向け、逃げ出そうとしている。――そんなパイロットでさえ、幼い子供を容赦なく外に投げ落とす銀仮面の行為には怖気を奮った。しかし――

「――高度は取れるか?」

 良心の呵責など微塵もない声。パイロットは瞬時に気持ちを切り替えた。――所詮、どこかから連れてこられた、そのままであれば路傍で野垂れ死にしていた子供達だ。寝床と食事が与えられていただけで充分幸せだったろう――と。――自分が殺されるよりはマシだ。

「――大丈夫です! 行けます!」

「――急げ! 間もなく爆撃機が来る!」

 既にレーダーには、友軍を示すグリーン・ランプが急速に接近している様が映っている。大出力の双発エンジンの唸りも高らかに、チヌークは白み始めた大空へと急速上昇していった。









 その少し前――



「――畜生! やりやがった!」

 上昇しようとして果たせず、ふらふらと飛んでいるチヌークに追走しているジープ上で、スコット伍長が叫びざまにハンドルを切り、滑走路に激突して砕けたカプセルをかわした。

 カプセルに満たされていた生理食塩水と共に飛び出したのは、五体を何か凶悪な力でねじ切られている少年の死体であった。特徴的なのは左腕の刺青…蛮刀を持った残虐な妖精の紋章。その下の数字は【NO・02】。

「スピードを上げろ、伍長!」

 助手席に立ち上がり、ウィリアムス軍曹が怒鳴る。――ヘリのハッチに新たな人影が現れ、そいつが何をしようとしているのか知ったのだ。

「チイィッ! 間に合え――ッッ!!」

 叩き付けるようにアクセルを踏み込むスコット。ジープはグン! と加速する。並走する仲間のジープもその後に続いた。

「俺は右! お前らは左だ!」

「了解!!」

 ただそれだけで何を言いたいのか伝わる。――同じ釜の飯を食った【仲間】とはこういう事だ。そして――ヘリから小さな人影が投げ落とされた。

「JESUS!!」

 一人目――ジープの真上に落ちてきたのをキャッチする。強い衝撃! だが、見事に受け止めた。二人目、三人目も隣のジープに乗るヘンドリック・・・海兵隊マリーン一の大男が捕まえた。彼は元々マイナーリーグのセンターだ。

 だが――四人目。最も小柄なその子は、ヘリのローターの巻き起こす風に煽られてあらぬ方向へと飛んで行った。

畜生がッガッデム!!」

 一人目の子供を座席に下ろし、ウィリアムスが跳んだ。――時速八〇キロで疾走するジープから!

「――軍曹サージッッ!!」

 急ブレーキをかけつつ振り返ったスコットの目に、コンクリート上をゴロゴロと転がっていくウィリアムスが映る。仲間のジープも次々に急停車し、ヘンドリックが、ノーマンが、ジムがウィリアムスに駆け寄っていく。

「軍曹! しっかり! ――衛生兵メディック! 早く来てくれ!」

「…情けない面するな…! 俺はまだ死んでねェ…!」

 時速八〇キロでコンクリート上を転がったのだ。ウィリアムスの迷彩服は所々破れ、黒褐色の肌は血で覆われていたが、彼は生きていた。その腕にしっかりと抱いた少女も。

 よっと声を上げて身を起こすウィリアムス。スコットたちが目を丸くする。

「――軍曹! 動いちゃ駄目だ!」

「フン、一端の口を利くようになったな。――安心しろ。俺はこれでも衛生兵ドク上がりだ。あっちこっちぶつけちゃいるが、死ぬこたァない。――ヤロウはどうした?」

 はっとして空を振り仰ぐスコットたち。――すでにチヌークは豆粒ほどに小さくなっていた。

「あの外道…! クソ! あン中にゃまだ餓鬼んちょどもが残ってたぜ…!」

「子供達を苛める奴、許さない」

 救出に成功した三人の子供と手を繋ぎつつ、ヘンドリックが唸るように言う。――誰もが同じ気持ちであった。だからこそ自分たちは、国家に刃向かうのを承知でクーデターに加わったのだ。何人もの子供の命を踏みにじり、更に理不尽な命令を次々に突き付けてくる上層部に怒りを抱いて。

「おじちゃん…痛い?」

 奇跡的な救出劇のおかげで、少女は無傷であった。しかし自分の為に怪我をしたウィリアムスに、涙を一杯に溜めた目を向ける。――【これ】がヘリから放り出された理由である事を知っているウィリアムスは、厳つい顔に笑みを浮かべて言った。

「――大丈夫だよ。おじちゃんは強いんだ」

 それでも少女は泣き出してしまった。まだ十歳にもならぬと言うのに、下手な大人以上の知識を植え付けられているせいだ。――そんな少女を、ウィリアムスは優しく抱き締めてやった。

「そうそうッ! 軍曹殿が恐いのはカミさんだけだよッ」

 スコットがおどけて言うと、どっと笑いが起こった。――スコットはこういう時にこそ重宝する男だ。どんなに大変な時でも、この男の笑顔でどれほど勇気づけられた事か。――今回もそうだった。少女が涙に濡れた顔を上げ、皆と一緒に笑顔を作ったのであった。

「やかましいぞスコット! ポーカーの貸しを倍付けにされてェのか!」

「WOW! そりゃないぜ、軍曹!」

「――馬鹿な事言っとらんで、さっさと中佐殿に連絡しろ! 【ボウヤ】にもだ!」

「了解! ――こちら【黒猫ブラックキャッツ】、CP(コマンドポスト)応答願います」

 子供達には笑顔を見せつつ、内心は緊張を孕んで通信機に向かうスコット。――今や反乱軍の中枢となってしまった航空管制塔から返事が届く。

『こちらCP。【黒猫】、状況を知らせよ』

「こちら【黒猫】、ドクターの殺害に失敗。――逃げられました」

『…そうか。やむを得ん。――国防総省ペンタゴンのカービー将軍に回線が繋がった。これから交渉に移る。お前たちも戻ってこい』

「こちら【黒猫】、了解」

 無線を切ったスコットに、ほっとしたような目が向けられる。

 カービー将軍と言えば国防総省の重鎮の中ではタカ派に属するが、純粋な叩き上げの軍人だ。徹底した現場主義者であり、軍に所属する全ての兵士たちを【息子たち】と呼ぶ彼への信頼は極めて厚い。彼ならば自分たちの造反…否、告発を信じてくれる筈だ。

「軍曹。我々も本隊と合流しましょう。――ヘンドリック、餓鬼んちょ…子供達を頼む」

「おう」

 大事を取ってウィリアムスに手を貸すスコットとノーマン。――本当はアバラを三本ほど折ってしまっていたウィリアムスが痛みを堪えて唸る。――その時であった。

「――ッッ!?」

 青みを増していく空の彼方に、三機の大型輸送機が姿を現わしたのだ。――ずんぐりむっくりした胴体に、四発のターボ・プロップ・エンジン――C130ハーキュリー。およそ軍人ならば、見間違える事など有り得ないほど親しみ深い機体。だがその方角は着陸コースではない。敢えて言うならば、地対空ミサイル【パトリオット】が配置されている、対空防衛ラインの真上であった。この基地を爆撃する際に最適と想定されたコース…。

 そして、鋼鉄の巨鳥C130はそれぞれ、白く巨大な卵を産み落とした。

「――冗談…だろ…ッ!」

 白いパラシュートを開いてゆるゆると降りてくる巨大な卵――BLU−82・ディジー・カッター。総重量一万五千ポンド(約六・八トン)に及ぶ超大型爆弾。それが――三発。

「〜〜〜〜〜〜ッッ!!」

 ウィリアムスは、そしてヘンドリックは子供達を庇うように力一杯抱き締めた。――この世で最も無駄な行為と解っていても、そうせずにはいられなかった。スコットも、ノーマンも、ジムも、その上から仲間を、子供達を庇った。

 数瞬後、BLU−82のVT(レーダー)信管が作動、第一次爆発で一発あたり五・七トンのアルミニウムパウダーと硝酸アンモニウムを空中に拡散、〇・〇三秒後に起爆用第二次爆発。計一七・一トンの可燃物を含んだ空気が大規模な粉塵爆発を起こし、直径二・七キロにも及ぶ火球を発生させ、爆心地を完全消滅せしめた。また、一平方センチあたり一トンを超える衝撃波と一千度以上の熱線は五キロ圏内のありとあらゆる地上・地下施設、二千人の将兵を含む生物無生物を尽く吹き飛ばし、なお衰えなかった衝撃波は近隣の町を襲い、千人以上の住民の鼓膜、肺胞、内臓を破壊、住宅内にいた住民は熱線が膨大な酸素を瞬時に消費した事により窒息死した。

「――神よ…許したまえ…ッ!」

 衝撃波に揺れるC130のコクピットで、長年暮らしてきた古巣を同胞もろとも爆撃したパイロットは、顔中を後悔の涙と鼻水に塗れさせながら神に許しを乞うた。

 そして――彼らは見た。【神】とも【悪魔】とも付かぬものを。

「JESUS・・・!!」

 放射能を伴わない核兵器とまで言われるBLU−82の作り出したキノコ雲が三つ、天空へと駆け上がっていく中で、爆発とは明らかに異なる巨大な光球が炸裂したのである。煙に紛れて大地を埋め、天に広がっていく光の帯は天使の、あるいは悪魔の翼を連想させた。いや、それはまるで、地獄を創り出した愚かな人類を裁くべく現臨した、黙示録の獣のようだ。――次の瞬間、光の帯がC130を包み、ひたすら神の慈悲を乞い願うパイロット達はその愛機とともに原子の塵に帰った。

 ――嘉手納基地消滅――この直後、全世界に点在するアメリカ軍基地をネットワークで管理下に置いている国防総省の戦略コンピュータがこれを非友好国による核攻撃と判断、直ちに報復攻撃プログラムをローディング。その膨大なプロテクトゆえに設定の変更が遅々として進まない目標選定プログラムは【冷戦】当時の攻撃目標――モスクワ、レニングラード、キエフ、ウラジオストックを始めとする旧ソビエト連邦国内の計一三八ヶ所に及ぶ主要都市、軍事施設、発電所、工場等に、既に削減された為に存在していない筈のICBMの照準をセット、カウントダウンを開始した。これを感知したロシア共和国とEUヨーロッパ連合の防衛コンピュータが迎撃システムと防衛システムを起動、こちらも削減された筈のIRBMの照準をワシントンDC、ニューヨーク、ロサンゼルス、シカゴ、フィラディルフィア、ホノルル等、アメリカ本土一二八ヶ所の都市と地域、トーキョー、オオサカ、サッポロ、アラスカ、パナマ、スエズ等、全世界一九六ヶ所の都市と地域に対してセット、カウントダウンを開始した。

 アメリカ国防総省は嘉手納基地消滅を確認しつつも、これを基地内部のクーデターによる自爆行為と判断、直ちに報復戦略停止を最後のシステム――機械群から取り戻した人間用のスイッチ――に委ね、ミサイル発射孔の数だけ通信波を飛ばした。同時にIFAFを通じてロシア防空司令部に攻撃中止措置を取った事を通達、ロシア防空指令部とEU各国はこれを確認し、戦略コンピュータに攻撃停止プログラムをローディング、全面核戦争を誘発する核ミサイル発射のカウントダウンは四一三秒を残して停止した。

 その十分後、エアフォースワンの機上からアメリカ大統領が、クレムリンの地下五〇〇メートルに設置されたシェルター内に避難していたロシア大統領とホットライン会談。互いの立場と事情を尊重し合い、嘉手納基地の調査はIFAF主体で行う事を同意した。要請を受けたIFAF評議会は最も攻撃力と機動力に優れ、なおかつ二時間以内に現地に急行できる部隊としてIFAF第七機動海兵中隊【竜騎兵隊ドラグーン】を派遣。事件の調査と情報収集を図ったが、かつて嘉手納基地のあった場所には巨大なクレーターが残るばかりで、何も発見できなかった。

 これが、アメリカ軍史の暗部に語り継がれる、【レッドキャップス騒乱】の結末であった。









 一九九八年、東京都内某所



 どことも知れない闇の中に、一本の蝋燭が燃えている。圧倒的な質量さえ感じさせる闇に挑むには、あまりにもか細い光であった。ふと目を外せば、その瞬間に存在を忘れてしまいそうになる――それほどに深い闇であった。

「女神(ドゥルガー)よ、殺戮と破壊の女神よ…」

 時間さえも定かにはならぬ闇の中で、低く陰鬱な男の声が呪文の詠唱のように響いた。

「【17セブンティーン】よ…。視えるか? お前の世界を見通す力を以って…」

 その声に呼応したか、蝋燭の炎が僅かに大きくなり、闇の中に目を閉ざした少女の顔がボウと浮かび上がる。アジア系の、褐色の肌を持つ美しい少女だ。

 少女の口が動き、病人の呻き声とも、太古の祭祀呪文とも付かぬ声が紡ぎ出される。次いで、ぎこちない口調で少女は自らの【視た】情景を言葉に表した。

「…女帝(エンプレス)のカードが視えます…。大いなる愛に満ち溢れた…」

「…続けよ。【17】」

 閉じられたままの少女の瞼が小刻みに震える。神の託宣を受ける巫女のように。

「女帝を護りしカードが視えます…。白き力(ストレングス)のカード…戦車(チャリオット)のカード…更に近くに太陽(サン)のカード…」

 少女の震えが全身に広がる。少女は心持ち顔を上に向けた。

「光が包んでいます…。柔らかく暖かい光が…。ああ…あなたは一体…!」

「落ち着くが良い、【17】。――ふふふ、大いなる【鍵】となる女帝…。今まで二百名近い候補者があったが、いずれも違う存在だった…。いや、お前を責めている訳ではないぞ、【17】」

「……」

「明かりを点けい」

 間を置かず、室内が明るくなる。しかし豪華そのもののシャンデリアが投げかける光はかなり光量を落としてあり、中世ヨーロッパの王侯貴族が好んだとされる豪奢な緋色の絨毯とカーテンも、黄昏時の光に沈んでいた。

 その部屋の中央には小さな木の机があり、先ほどの少女が座っている。そして少女の正面に、部屋の主が両足を揃え、背筋を伸ばして立っていた。部屋の造りと同じく、発する言葉は日本語でも、主は日本人ではなかった。彼と、その周りにいる者も。

 だが――その男の服装は? 

 金モールと肩章、襟章に飾り立てられた黒い軍服。当時最高のデザイナーがその才能を絞り尽くして作り上げたというデザインは、今なお胸を熱くかき立てられる若者を生むが、同時に世界人口の三分の一ほどからは、恐怖と憎悪の視線を送られる。とある男の名と、彼が属した国の名と共に。

「【鍵】となる人物が覚醒を迎えていなかったのであれば、【17】の【力】を以ってしても見通せなかったのは道理。だが今や、【鍵】は覚醒を迎えた。そして【鍵】を手に入れさえすれば、我らゲルマン民族が再び世界を手中に収めるのだ。総統フューラーが為し得なかった偉業を、我らが代わって成し遂げる。――世界中の、民主主義などという戯言を糧に惰眠を貪る奴ばらに、我ら第三帝国の軍靴の響きを聞かせてやろうぞ――」

 黄昏の光を反射してきらりと光ったのは、黒い鉤十字ハーケンクロイツ。そして男の軍装は、かつてヨーロッパで恐怖の代名詞とされたSS(ナチス親衛隊)軍装であった。

 その時、キイ、と音を立てて部屋の扉が開き、赤いワンピースに身を包んだ少女が入室してきた。

 自らに陶酔し切っていた男は、途端に不機嫌極まりないような表情を作る。

「【20トゥエンティ】か…何だ?」

 まるで汚物でも見るような視線。そして口調。まだ年端もいかぬ少女にそんなものを向けられる男は、悪党という言葉では足りないに違いない。そんな男の耳に、か細い猫の鳴き声が響いてきた。

「何だ、その薄汚いモノはッ!」

 男の一喝に、少女はビクッと身体ごと縮こまった。しかし、やっと声を絞り出す。

「拾ッタ…。捨テラレテテ…雨ニ打タレテタカラ…」

「――捨ててこいッ!」

 再び、男は一喝した。【20】と呼ばれた少女は声の圧力だけで二、三歩後じさる。

「デモ…」

「聞こえなかったのか! 捨ててこいと命じたのだ!」

「デモ…コノ子死ンジャウヨ…」

 それこそ蚊の鳴くような声で弁明する少女。すると男はずかずかと少女に歩み寄り、その頬を思い切り張った。悲鳴は小さく、しかし少女は数メートルも飛ばされて床に倒れる。しかし、誰も少女を心配するどころか、同室していた少年達はフンと鼻を鳴らして笑い飛ばしただけであった。みるみる腫れ上がる頬を押さえながら、少女は泣く泣く部屋を出て行く。

「出来損ないめが…。――【19ナインティーン】、【21トゥエンティワン】、お前たちの出番だ。今から指示する場所に行き、速やかに任務を達成せよ」

了解ヤー

 【19】と呼ばれた白ロシア系の少年は慇懃に、【21】と呼ばれた黒人少年はクチャクチャとガムを噛み鳴らしながら答える。

「さあ【17】よ。女帝の居場所を告げよ」

 この間、声を上げるどころか身じろぎ一つしなかった少女は、やはりぎこちない口調で告げた。

「…場所は…シンジュク…マガミガクエン…」

「新宿…先頃、巨大なPSYサイ・パワーを検出した地だな。――よし、行け」

 男が肯き、顎をしゃくると、【19】と【21】の両少年は男に恭しく一礼して、素早く退室して行った。

 後に残された男は、ふと、少女が未だトランス状態から脱していないのを知った。

「どうした【17】。まだ何か見えるのか?」

 少女の眉間にしわが寄り、汗が浮き出る。視えぬ何かを視ようとしているのだ。

「…もう一つ…微かに見えます。…ドラゴン…いえ…旅人を示す愚者(フール)のカードですが…」

 熱に浮かされたかのように、少女はまたも全身を震わせる。

「…赤い霧…その中に何かが…ですが…視えません…」

「なんと…。お前の千里眼の【力】を以ってしても視えないモノがあるとは…」

 男は驚愕の呻きを洩らす。今まで、そんな事はなかったのだ。

「あッ…!」

 【17】が小さく悲鳴を上げる。

「どうしたのだ!?」

「赤い霧…あれは…血…!? その向こうに…あれは死神(デス)のカード…? まだ…他にも…ああ…あなたは…誰…? いいえ…なんなの!?」

 明らかに恐怖に震える声だった。【17】は両手で頭を抱え、長い髪を振り乱す。

「落ち着け! 落ち着くのだ! 【17】!」

「…来る! あれは邪妖精のレッド…!!」

 次の瞬間、【17】は雷に打たれたようにビクン! と身体を震わせ、かっと両眼を見開いた。白く濁った球体と化した眼を!

「【地獄の扉が開いたぞヘルズ・ゲート・オープン】…!」

 元の彼女の声とは似ても似つかない声でそう告げると、【17】はばったりと倒れて気を失った。

「一体…何が…!」

 男は呻いたが、それに応える者は、誰一人いなかった。









 東京、目黒区、目黒不動尊、〇七〇〇時



「ふわわわあああああぁぁい…」

 清々しい朝の空気の中、派手な大あくびを洩らした京一の口の中に、何かが放り込まれた。

「モガガッッ!?」

 思わず噎せ返り、口の中のものを噛み千切る京一。それはあっけなく噛み千切られ、潰れ、代わりに甘い味が口の中に広がった。

「――って! ひーちゃん! 俺を殺す気かッ!?」

「…有名になれるぞ。蒲菓子を喉に詰まらせて死んだ最初の若者だ。馬鹿者とも言うが」

 しれっとした顔で言い、黒糖のたっぷり付いた蒲菓子を頬張る龍麻。並んで歩いている醍醐と紫暮の手にも同じく蒲菓子が握られている。この早朝に寺に訪れている大柄な男子高校生四人の手に蒲菓子。それが笑うべき光景か怖れるべき光景かは意見が分かれるところであろう。怪しさ満点であるところだけは意見が一致する事間違いなしだが。

 龍麻たちが朝早くに赴いたのは、江戸五色不動の一つ、目黒不動尊瀧泉寺であった。ここは関東最古の不動霊場として伝わっているので、常に人で賑わっているのだが、さすがにこの早朝では、体操やジョギングに勤しむ人影も皆無だった。

「それにしても、今朝は珍しい顔ぶれだな。しかも龍麻はバイクでか」

「まあな」

 蒲菓子を下品にモグモグやりながら京一が答える。

「ま、たまには男の友情を確かめ合うってのも悪かねェってな」

 本来なら受験やら何やらで忙しい高校三年生がこうも連日外出しているのでは、龍麻たちはともかく葵達は両親に要らぬ心配をかけてしまうだろう。しかも何やら余り良くない噂を持つ男達のグループにいるらしい…となれば尚更だ。その辺を配慮した醍醐の提案で、珠の封印は早朝に男達だけで済ませてしまう事になったのだ。

 ――と、これが建前で、真実は龍麻の【無差別キス疑惑】をまだ葵が許していない事にあった。おかげでここ数日、菩薩の微笑みを浮かべる葵のこめかみには常に【怒りマーク】が震えており、真神の男どもはビクビクしているのである。

 はあ、とため息を付く三人に、何よりも龍麻が女性陣にフクロ(未遂だが)にされる現場を見ている紫暮は、三人の現状に思わず合掌してしまった。強力な攻撃力を有する仲間が増えるのは心強いが、同時に、敵に廻すとこれほど恐い相手もいないのである。

 それはさて置き、蒲菓子を齧りながら寺の境内をうろつく事数分。龍麻たちは封印の祠を発見した。

「オッ、あったぜ。こいつが祠だ」

「ほほう。意外と小さいな」

 鬼が封じられていたにしては、と龍麻が感想を洩らす。

「俺も最初はそう思ったけどよ。まあ見てろって」

 前回に引き続き珠の保管を任されている京一は、先日手に入れたばかりの珠を手のひらに乗せて祠に近付いた。すると黒い珠の方が反応し、光を放ち始める。

「おお…」

 醍醐も紫暮も驚きの声を上げる。珠はひとりでにぽんと飛んで祠の中に消え、代わりに何やら丸っこい土の人形が祠から滑り出てくる。すると祠は一度だけ輝きを増し、目の前から消えて行った。

「…という訳だ。どういう仕組みか分からねェが、これで封印完了って事らしい」

「それにしても、遮光器土偶とはな。これも一種の等価交換だろうか?」

 この江戸を護る為に、かの天海大僧正が張り巡らせた巨大な結界。その圧倒的な法力と呪法技術の粋を尽くしたであろうシステムも、龍麻にとってはパチンコの景品交換所と同レベルらしい。京一でさえこの技術の凄さに感心しているというのに…龍麻以外の三人はへなへなと脱力してしまった。

「し、しかし勝手に持って行って良いものなのか?」

 かろうじて醍醐がもっともな意見を述べる。

「問題あるまい。恐らくこの祠は呪力を持つ物品を納める事で機能しているのだろう。封印を解いた者はこの品をスケープゴートとして使用した。そして我々は本来の品を返すのだから、こちらは貰っても良かろう。鬼を封じていた珠の代わりを務めていたほどの品だ。我々にとって必ず役に立つ筈だ」

 さすがは龍麻である。京一よりよほど筋が通っている。

「結界も機能し始めたようだな。紫暮、朝早くからご苦労だった」

「はははっ、鍛練のついでだ。それよりも、決戦の時にはぜひ俺も呼んでくれ」

 豪快に笑う紫暮。龍麻は笑みを返しつつも、その心中はやや緊張を孕んでいた。

 決戦は近い。その事は仲間たちの誰もが感じている事だ。既に十人を越えるほどになった仲間たちは、来るべき日に備えて旧校舎入りが増えていた。放課後すぐに旧校舎入りしてしばらく戻ってこない者もいれば、忙しい時間の合間を縫って、かなりきつい相手に挑戦して帰る者もいる。多くの場合、龍麻もそれに同行しているが、各自に義務づけている訓練表の数が増えてきたのと、チャレンジ項目がより多く、内容も過激になってきているので、それらを管理する龍麻の仕事も増えてきている。各自の戦力分析、パーティー編成、新技実験など、指揮官である龍麻は忙しい事この上ない。それでいて自分の鍛練にも余念がないのだから、仲間たちが彼に寄せる信頼は絶大で、【決戦には共に】と全員が考えているのだ。

「うむ。だが、気負い過ぎるな」

「うむ! じゃあなっ!」

 そう言い残し、紫暮はランニングしながら去って行った。

「相変わらず豪快な男だな」

「周囲からの信頼を得られるのはああいう男だ」

 自分も絶大な信頼を寄せられていながら、龍麻はそんな事を言う。そういう時、京一も醍醐も自分達はまだまだだな、とか考えてしまう。信頼は得る事が非常に難しいのに、失うのは一瞬である。だが龍麻は一瞬一瞬の行動の中で信頼を勝ち得る事ができる。冷酷にして非情な言動も、後になれば本人の為になったり、理不尽な命令も、実は最良の結果を得る為に必要な事であったりする事などしょっちゅうだ。そして、このさりげない、仲間に対する心遣い。常に仲間全員に目が行っているというのは、本当に凄い事だ。そして、離れた場所で闘っていて、龍麻自身に余裕がないように見える時でも、「XX! ○○の援護に向かえ!」という怒鳴り声を耳にすると、いつでも自分達を気にかけていてもらえるという安心感にほっとし、闘志を奮い起こされるのだ。

「今から学校に向かえば一時限目の授業には間に合う。二人とも、寄り道するな」

「龍麻はどうするつもりだ? まさかバイクのまま登校するのか?」

「そこまではしない。だが、もう少し慣らし走行をしたいのでな」

 龍麻は寺の入り口に止めてあったバイクに跨り、キーを挿し込んだ。

 猛々しい獣の唸り声のようなエンジン音。だが、どこか普通のバイクとは違う音。そして基本型はドカティの九〇〇CCなのだが、最新版のカタログにも出ていないモデルの上、車体の構造から様々なオプションに至るまで、とことんカスタム化されている。――カラーは龍麻にしては珍しく、真紅である。

「しっかし、よくこんな高そうなバイクが買えるな。俺なんかラーメン一杯食うのにも気を使うのによ」

「その分努力している。こいつの購入と改造には三千万以上の資金をつぎ込んだ。今後の戦闘にも役立つようにな」

「何だと? つまり…いわゆる新兵器なのか?」

「そうだ。都市部におけるバイクの高機動性は役に立つ。――現在開発中の予定型名【999S】のプロトタイプを図面から再構築させ、戦闘装備を搭載した。使い方によっては戦車とも渡り合えると彼女――開発者は言っていた」

「そ、そうか…」

 相変わらず、人の常識をあっさり覆してくれる男である。どこの世界にバイクの改造だけで三千万もの大金をつぎ込める高校生がいる――と突っ込めばこの男は迷わず「ここにいる」と胸を張って言うだろう。何しろこの男、授業などろくに聞きもせずに株式情報に耳を傾け、大企業の社長以上の高収入を得ているのだ。その癖、私生活は質実剛健。――妙な男である。

「では、先に行く」

「ああ、後でな」

 龍麻はパイロット仕様のヘルメットを被り、高周波の唸りをエンジンに上げさせてバイクを発進させた。あっという間にその姿が小さくなる。

「さて、俺たちも学校に行くか」

「チッ、かったりいなあ」

「そう言うな。さあ、行くぞ」

 不平たっぷりに愚痴を零す京一の肩を叩き、醍醐は駅に向かって歩き始めた。









 ――同時刻



 美里葵は一人で学園へと向かう通学路を歩いていた。

 龍麻たちが珠の封印に出掛けて行った事は知っている。部活の朝練が入っていた小蒔は別として、言わば置いてきぼりを食った形である。こめかみの【怒りマーク】が消えていない理由の半分はそれであった。

(別に本気で怒ってる訳じゃないけど…)

 一応、自分に弁解などしてみるのだが、やはり先日露見した龍麻の朴念仁ぶりは腹に据えかねた。どういう状況であったか不明だが、三桁に届くカナダの女子高生とキスしたという事実、そして年齢を問わず男ともキス(人工呼吸だが)していたという事実は、醍醐が【白虎】だったという事よりも衝撃的であったのだ。

 そしてあの時の、【仲間】の【女性達】の反応。

 感情抑制処置を受けた元機械兵士、レッドキャップス・ナンバー9。戦闘時における超人的戦闘力もさる事ながら、全体を見通す指揮力。どんな激戦でもこの人といれば…と思わせる圧倒的なカリスマ性を持っているとなれば、【仲間】の半数を占めるフリーの女性達が胸をときめかせるのも無理はない。そして今までの葵は他人の事には鋭く自分の事にはとことん鈍かったのだが、この一件で自分の中に、龍麻に対する特別な感情が育っている事を認識するに至ったのである。

 だが――【あの】龍麻である。

 そこらの大人以上に深い知識と観察眼、そして判断力を有しながら、しかし龍麻は自分が女性にモテるとか、そういう事にまったく関心がない。知識はあるのだが、その意味するところを理解していないのだ。恋愛シミュレーションゲームなどに手を出しているのも、現代高校生の心理を研究するという名目であり、そして非常に頭を悩ませている。

 この状況下で露呈したライバルの存在。とりあえず小蒔は醍醐とくっついたのだから除外し、裏密は未だに名字で呼ばれているから多分大丈夫と踏んで、今一番龍麻に近いのは自分――と考えても、【あの】龍麻である。ちょっとやそっとのアタックではまったく気付かない、筋金入りの朴念仁だ。と、なれば【好きだからいじめてしまう】という、何処にでも転がっていそうな心理状態に葵が落ち込むのも無理はなかったのである。

 だから、担任教師が声をかけても数秒ほどは気付かなかった。

「Good morning、美里さん」

 三−Cの担任、マリア・アルカードがもう一度繰り返した時、葵ははっと気付いて慌てて頭を下げた。

「Good morning、マリア先生」

「珍しいわね、今朝は一人なの?」

「ええ、小蒔は朝練で後輩をしごくんだって、先に学校に行っているんです」

「そう…。それなら一緒に学校に行きましょう」

 マリアがそう言ったのは、葵の表情が優れないのを感じ取った為である。マリアとて曲がりなりにも担任なのだから、どうやら葵が龍麻の事でやきもきしているらしいという事は知っている。そして龍麻が、どうしようもない朴念仁である事も。

「元気がないわね。どうかしたの?」

 こういう時、単刀直入に聞くのは生徒を傷つける事になろう。マリアはわざと軽い言い方をした。

 一方、葵は【龍麻の事です】とも言えず、とっさに別の、憂鬱の半分ほどを占める話題を口にした。

「ええ、実は昨日、母と一緒にボランティアに参加したのですけど、その時に大切にしていた時計をなくしてしまって…」

 それは父親から高校の入学祝に贈られたものだったのだと葵は告げた。実際、大切にしていたものだったので、今の葵にとっては踏んだり蹴ったりといったところである。

「そう…。せっかくのボランティア活動に水を差されてしまったわね。落とし物としても届けられなかったの?」

「はい…」

「困ったものね。そのボランティア――バザーだったかしら? どういう目的で行われたものだったの?」

「ええ。世界中の恵まれない子供の為、その収益金を資金に孤児院を建てるそうです。主催した慈善団体は今年になって大田区に学校を設立してまして、この孤児院設立も慈善事業の一環だそうです。より多くの人の善意によって孤児院を設立したいと」

 それを聞いた時、マリアの顔が心なしか曇った。

「…戦争や災害で最初に被害を受けるのは、いつでも力なき子供たち。愚かな――いえ、哀しい事ね」

 その深い哀しみを秘めた言葉に、葵は先日の龍麻の言葉を思い出してしまう。自分がボランティアに参加する事と、バザーというものを説明した時の言葉だ。



『余り有効的な手段とも思えんな。なぜ今苦しんでいる人間を助ける為に、有り余るほど裕福でもない人間が僅かな金を出さねばならないのだ?』



 ある意味正論だが、例によって実も蓋もない言葉であった。但し彼の場合は経験でものを言っているのだから返す言葉もない。



『本気で不幸な人々を助けるには、戦争を起こすのと同じくらいの資金が必要だ。一般市民が個人レベルで出せる金額ではまず無理だろう。そもそも、そんな人々を生み出す要因を排除する事こそ緊急の課題だと俺は思う。――都市部への無意味な人口集中による第一次産業従事者の減少、避妊を禁じる宗教的教義が誘発する過度な人口増加、外貨獲得産業の非力さ故の輸出低迷、昨今のドル高による輸入減少。産業の伸び悩みが税収を低下させ、国家財政が逼迫することによって発生するインフレ。失業率の上昇と共に犯罪も増加し、社会全体のモラルが低迷、都市部にまでゲリラまで出るようになれば外国資本も撤退する。――果ての見えない堂々巡りだ。その中で無能で無策な欲塗れの政治家や、理想も情熱も捨てて馬鹿な夢を見るゲリラ、テロ組織、死の商人が好き勝手に跳梁している。人々の善意という僅かな金で一人を救っている間に、そういう奴らは千人を殺す。時には人々の善意さえ食い物にするぞ』



 さすがにこの発言に葵は怒った。現実直視もいいが、彼の場合はそれが極端すぎるのだ。それを指摘すると、彼はまたしても体験談を引っ張り出した。場所はアフリカ。とある武装勢力の指導者の暗殺に赴いた際、国連が派遣した救援物資輸送チームが武装勢力に襲われ、その護衛に当たっていたPKO活動中の自衛隊員が為す術もなく殺傷された現場を目撃した事を。それを行ったのが、難民キャンプから誘拐された少年兵である事を。それほどの犠牲を払いながら届けた救援物資を、我先に奪い合う難民達の姿を。それは――【現場】の【現実】であった。



『自分では闘えぬ子供たちに与えなければならないのは暖かい寝床に食事、そして居心地の良い環境と教育だ。それを与える事は、やろうとすれば誰にでもできる。だが、不幸な人々を生む根本原因を知らずして、金だけ出せば良いという考えには賛同できんな。第一、本当にその金や物資が不幸な人々の下に届くか疑問だ。そして、貰える事が当たり前になった者たちは、貰えなくなると怒り出し、略奪とテロに走る。――【倉廩そうりん満ちて礼節を知り、衣食足りて栄辱を知る】――心に余裕なき者に、人々の善意は届かない』



 結局、この話の為に龍麻とは交戦状態にある。もちろん、葵が一方的にそう思っているだけであるが。

 それぞれが物思いに耽っていると、朝の空気を切り裂いて、一台の黒いベンツが彼女たちの行方を遮るように歩道に乗り上げてきた。

「危ない! 美里さん!」

 考え事をしていた分、頭の切り替えが遅れた葵はその場を跳び退くのが精一杯で、歩道に尻餅を付いてしまう。しかし車との激突を免れたとほっとしたのも束の間、ベンツの中から数人の男達が飛び出してきて彼女たちを取り囲んだ。

「Stop! Frieze!」
(止まれ! 動くな!)

 まるで一昔前のギャング映画のようなシチュエーション。その中で響いたキンキン声の警告。あまりにも場違いな声の持ち主は、まだほんの少年…せいぜい中学生くらいの黒人少年であった。

「What――are you doing?  Who are you?」
(これは…何の真似? 何者なの?)

 しかし少年はマリアを一切無視して、葵に視線を向けた。

「Aoi Misato。 Aren’t you?」
(美里葵。お前だな?)

「え…?」

 突然の事に頭が付いて行っていない葵であったが、自分の名が呼ばれた事で我に返った。だがその反応で自分が本人である事を喧伝してしまう。

「Come here!」
(こっちへ来い!)

 信じられない事に、ダークスーツにサングラスの男に命令を下したのはこの少年の方であった。葵は乱暴に両腕を捕まれ、車の方へと引きずられて行った。

 無論、マリアが黙っている筈はない。

「Let her go! And go away!」
(その子を放して! そして消えなさい!)

「先生! いけません!」

 果敢にもマリアが男達に立ち向かおうとした時、葵には聞き慣れた金属音…銃の安全装置セフティを外す音が響いた。

「クッ…!」

 マリアは唇を噛み締めて動きを止める。男達に命令するものがもう一人いたのだ。四方から銃口を突き付けられたマリアの前に、黒人少年よりは年嵩の、しかしやはり中学生以上には見えない白ロシア系の少年が姿を現わした。

「Frieze。 …Take her with us」
(動くな。…そいつも連れて行く)

 少年らしからぬ、機械を思わせるような冷たい声音。一瞬、葵は龍麻を連想した。今でこそ角が取れているが、初めて正体を明かした頃の龍麻に雰囲気がそっくりだと。

「ケッ、Old bitches」
(ケッ、年増が)

「ッ!」

 マリアは一歩前に踏み出し、へらへらと薄っぺらな笑いを浮かべる黒人少年の横面を平手打ちした。

「OUCH!!」

 体格差の為、二回転もする黒人少年。そんな暴挙にも、ダークスーツの引き金は引かれなかった。男達の銃にサイレンサーは装着されていない。撃てば当然、この住宅街に銃声が鳴り響く事になる。いくらこんな強引な誘拐劇とは言え、銃が使用されたとなれば警察が黙っていない。危険な賭けではあったが、マリアの行動はそれを見越してのことであった。

 しかし――

「Shit! Fucker!」
(クソ! このアマ!)

 少年にあるまじき悪罵と同時に、黒人少年の全身から血色のオーラが膨れ上がった。似たような光景を何度か目にした事のある葵は思わず息を呑み、マリアも愕然と硬直する。

「Hey! 【21】! Let’s  run  away!!」
(【21】! 行くぞ!)

 ロシア系の少年が荒々しく命令すると、黒人少年は苦々しげに唾を吐き、ダークスーツたちに顎をしゃくった。今度おかしな真似をしたら本当に撃つという事を解らせる為か、マリアの背に銃口が押し当てられる。龍麻なら恐らく「素人め」と毒づいたろうが、こちらも銃の扱いに関しては素人であるマリアも葵も、今度こそ抵抗する事ができずに車の中に押し込まれてしまった。そして少年達も素早く周囲を見回してから車に乗り込み、現れた時と同様、ベンツは朝の空気を切り裂くような猛スピードで走り去って行った。

 誰もいなくなった現場に、こそこそと一人の女子高生が出てきたのはベンツが角を曲がった時であった。

「と、特ダネだわ…!」

 熱に浮かされたような声で呟いたのは、真神学園新聞部部長の遠野杏子、通称アン子であった。

「こ、これって誘拐よね。この写真を週刊誌に売り込めば――って、違うでしょ! 美里ちゃんとマリア先生が誘拐されちゃったのよ! 大変なのよ! ――でも警察とかに売り込めば、白昼の誘拐劇を目撃した美少女記者としてワイドショーの取材が来るかも――って、違う違う! それどころじゃないんだってば! でも――!」

 友人が誘拐されるという重大事件を目撃してしまった普通の女子高生アン子と、重大事件のスクープに成功した新聞部部長アン子がガッチリ四つに組んで【のこった、のこった、のこった】…という状態にあるアン子。しかし――

「ええええッッ!? う、嘘ォッ!! か、カメラが壊れてる…!!」

 ああっと【寄り切り】! 寄り切って普通の女子高生の勝ち!

「そんな! こんな事って――!」

 記者にとってカメラは命より大切(不肖・宮嶋氏、談)である。当然、アン子も毎日のメンテナンスに余念がなく、故障など有り得ない筈なのに、この有り様である。地団太踏んで嘆くアン子の耳に丁度その時、昨日聞いたばかりの特徴的な爆音が響いてくる。

「おお! これぞ救いの神!」

 通りを制限速度プラス二〇キロほどで走ってくる真っ赤なバイクと黒いライダーに向かって手を振りながら、アン子は車道に飛び出した。

「停まって! 龍麻!」

「うおッ! アン子!」

 けたたましいブレーキ音を響かせ、龍麻はバイクを急停車させた。

「いきなり飛び出すな。死にたいのか」

「アタシだってまだ死にたかないわよ! ――お願い! たった今美里ちゃんとマリア先生がさらわれたの! 早く追って!」

「なに!?」

「アタシにも訳わかんないわよ! とにかく黒のベンツよ! ナンバーはXXXX! この先を右に曲がったわ!」

 ぱぱぱ、とまくし立てるアン子。龍麻は瞬時に情報を整理し、次の行動を算出する。

「――お前は学校で京一達を招集。連絡するまで学校で待機。できる事は全てやっておけ!」

「解ったわ! ――気をつけて! やばい連中よ! 銃も持ってたわ!」

 龍麻はヘルメットのバイザーを下ろし、バイクのパネルから引っ張り出したコードをヘルメットのジャックと接続、アクセルを捻った。――軍の最高レベル機密、一三〇〇CC磁気誘導エンジンが吠える。

 まさかこんな朝っぱらから鬼道衆が攻めて来るとは!? これまでの戦闘で幹部四人を失い、鬼道衆側も必死の筈だから、こちらの情報収集にも余念がない筈だ。ましてこちらは学生の身。調べようと思えば身元調べはたやすい。鬼道衆がこちらを闇討ちしようとしないのは、むしろ不自然な事であった。だからこそ誰にも知らせず、仲間達全員の家に警戒装置を張り巡らせ、また、如月や織部姉妹の助力を得て結界を張るなどの処置を施したのである。

 当然、個別撃破されぬように仲間達全員とその家族などには、下忍、中忍レベルの敵が近づけぬ程度の護符も持たせている。それが効かぬという事は、葵をさらったのはまず上忍以上、下手をすると鬼道五人衆最後の一人である可能性もある。だが――鬼道衆が車を…それもベンツを使うなど、これまでのパターンには当てはまらないのも事実だった。

「――交通情報!」

 音声指示をバイクに搭載したコンピュータが認識、即座にGPSとナビシステムにアクセスし、ヘルメットのバイザーに情報を投影する。

 新宿通りから早稲田通りへ。通勤時間帯であるが故、この道は込み合っている。そこに、いた!

 いかにも、と言わんばかりの黒いベンツ。窓にはスモークフィルムが張られているので中の様子は窺えず、ナンバー・プレートも違っているが、龍麻はその中に葵の【気】を探知した。

 ナンバーを付け替える――プロの手口だ。

 そして、それを証明するかのようにベンツが強引に車線を変更、疾走を開始した。

戦闘開始コンバットオープン!)

 龍麻はアクセルを全開、猛スピードで追跡を開始した。

 平日朝の通勤ラッシュ中に、高機動のバイクから逃れられる車両など存在しない。龍麻はあっという間にベンツに肉迫した。

「――!」

 カーチェイスでは到底及ばぬと見たか、サンルーフが開き、中からダークスーツの男が現れる。龍麻は減速し、ベンツから二〇メートルほどの距離を取った。――銃声。一メートル以上離れた所を弾丸がすっ飛んでいく。おそらく九ミリ弾。銃の種類は判らない。

 立て続けに響く銃声。しかしカーチェイスの真っ最中なので狙いはとことん外れている。

(走行車両における射撃経験はなしか)

 つまり、プロではあるが、戦闘のプロではないという事だ。そして諜報戦のプロでもない。こんな朝っぱら、街中で発砲するなど、まるで一昔前のヤクザだ。龍麻は一五メートルまで接近し、グロック19・九ミリ自動拳銃オートを抜いた。

 すると向こうでも、拳銃では当たらぬ事に業を煮やしたのだろう。ダークスーツが拳銃をマシンガンに持ち替えた。

(MP40!?)

 その特徴的なフォルムを見間違える筈もない。ダークスーツが抱えているのは第二次世界大戦においてドイツ軍が使用した実用型サブマシンガン、MP(マシーネンピストーレ)40であった。当時のドイツの工業力は世界第一位であり、兵器開発においては他国より十年は進んでいたと言われる。特にソ連軍の使用していたPPsh41サブマシンガンに対抗する為に改良を重ねられた末期型は毎分千発の連射性能を達成し、完成から五十年以上を経た今でも高い性能評価を得ている。――だが、この日本で!?



 ――ダダダ! ダダダダダダッ!



 古典的な銃声と共にバイクのフロントパネルで火花が弾け、龍麻の身体を弾丸が掠めていく。現代の最新式マシンガンにも劣らぬ速射に加え、銃自体が重い事もあって反動が軽減され、全自動射撃フルオートでも狙いが付けやすいのである。――いくら防弾仕様のバイクとは言え、この距離は危険だ。

「――ハイ・ビーム!」

 縦方向に二つ並んだライトの内一つが、ヘルメットに仕込んだ視覚誘導装置によってダークスーツにロックオン、強力な目晦ましを浴びせる。レーザー照準されているライトはバイクの位置や姿勢に合わせて角度を変え、常にダークスーツの顔面に向けて光を照射し、銃の狙いを付けさせない。

 龍麻はバイクを右に左に操ってチャンスを待った。流れ弾を受け、あるいは驚いたドライバーが後方で次々に事故を起こす。葵一人をさらうのにこれほどの大騒動を引き起こすとは何者だ!? 

 考えるのは後でもできる。ダークスーツが弾倉を交換する間隙を縫って、龍麻はグロックを発砲した。

「ぐおッ!」

 狙い違わず、右肩を撃ち抜かれたダークスーツが車内に引っ込んだ。追っ手が銃を持っているなど夢にも思わなかったのだろう。しかも、この揺れの中で正確に相手に命中させるなど。更に龍麻はバイクを左右に振って、ベンツのサイドミラーを左右とも撃ち飛ばす。半分は威嚇、もう半分は正確な運転をさせぬためだ。龍麻の腕を知り、ベンツの動きに動揺が現れた。

 一気に畳み掛けるべく、龍麻はバイクのスピードを上げた。ベンツは急ハンドルを切って龍麻を路側帯とサンドイッチにしようとするが、その寸前に龍麻はベンツの前に踊り出た。

 バックミラーでベンツの車内を確認。後部座席中央に葵とマリア。二人を挟むようにして、なぜか外国人の少年が二人。あとは運転手と、肩を負傷したダークスーツである。

 バイクには対車両用装備もあるが、スパイクやスモークでは中の二人にも危険が及ぶ。龍麻は左手に銃を持ち替え、バックミラーだけを頼りに発砲した。

 フロントガラス表面で弾ける火花。思った通り、防弾ガラスだ。しかし龍麻は構わず弾丸を立て続けに叩き込んだ。いくら平気だと判っていても、自分に向かって発砲された弾丸が目の前で火花を散らすのである。この本能的な恐怖に耐えられる人間など、滅多にいるものではない。泡を食ったドライバーは急ブレーキを踏んだ。

 龍麻も急ブレーキをかけ、アクセルターン! 約二〇メートルほどの距離を置いて、ベンツと真方面に向かい合い、アクセルを空吹かしした。

(どう来る?)

 口元に自然、狂暴な笑みが沸いてくる。半分は心理的効果を狙ったものだが、もう半分は、このスリルを楽しんでいる事に龍麻は気付いた。余り良くない兆候だと解っているのだが、うまく押さえられない。ベンツから発散される雰囲気のようなものが、何か龍麻の本能的な部分に抵触しているかのようだ。ベンツの敵を倒す事に、何か残酷な喜びを感じる。理由は分からない。

 ドアが開き、MP40を構えたダークスーツが飛び出す。だが銃を構えようとするよりも先に龍麻のグロックが火を噴き、ドアで火花を散らす。ダークスーツはドアを盾に隠れたのだが、それこそ龍麻の狙いだった。龍麻はバイクを急発進させ、前輪を跳ね上げてドアに体当たり! ダークスーツはドアと車体にサンドイッチにされて肋骨を砕かれ、路上に壊れた人形のように転がった。街中でマシンガンを乱射するような輩に、容赦するつもりなど毛頭ない。

 ドアを開きっぱなしにしたままベンツが急発進。龍麻の実力を知り、闇雲な逃走に移ったか!? 龍麻はバイクをターンさせ、追跡に移ろうとした。その瞬間、背後から何者かが組み付いてきた。

「ッッ!?」

 首にかかる凄まじい圧力! そいつはドアで挟み潰した筈のダークスーツだった。龍麻は既に走り出していた為、バイクのコントロールを失う。右に左に蛇行するバイクによって路上を引きずられながら、ダークスーツはびくともせずに龍麻の首を絞め続けた。指が更に食い込み、龍麻の口から舌が飛び出す。

「グウウッ!!」

 走行中のバイクの上で暴れるなど自殺行為だ。そして今スピードを失えばバランスを崩して転倒する。こんな車通りの激しい道路で転倒しては一巻の終わりだ。龍麻はグロックを男の脇腹に押し付け、立て続けに引き金を引いた。ダークスーツの腹が破れ、腸が飛び出す。それなのに、手の力が緩まない!

「Shit!」

 かなり危険な行為だがやむを得ない。龍麻はグロックを肩口から背後に向け、ダークスーツの頭部を狙って発砲した。



 ドウン!



 九ミリの自動拳銃だったからまだ救われたが、強烈な衝撃に鼓膜を叩かれ、三秒ほど聴覚と平衡感覚が失われる。幸いバイクの強制姿勢制御システムの作動が間に合ったのでコントロールを失わずに済み、脳を吹き飛ばされたダークスーツもさすがに手を放した。――と、思ったらまだバイクのマフラーにしがみつく。頭が半分消失しているというのに!? 

(あの時のゾンビーか!? しかしこいつは銃を――)

 考えている暇はない。龍麻は更に銃弾を浴びせ、ダークスーツの頭部を完全に吹き飛ばし、手首を撃ち飛ばした。軽くなったバイクを駆り、ベンツを追う。かなり引き離されていたものの、首都高速入り口でベンツに追い付いた。料金所を強行突破するベンツを追って龍麻も高速に飛び込む。――料金所の係員が血相を変えて電話に飛び付くのがバックミラー越しに見えた。

「――これ以上、時間は掛けられんな」

 あれだけ頑丈な車なら、対衝撃性能もかなりのものだろう。龍麻はそれに賭け、ベンツの速度がそれほど上がらぬ内にバイクのアクセルを固定、車体から安定翼カナードを出現させて姿勢制御、両手撃ちの精密射撃でベンツの後輪に炸裂弾エクスプローディングブリットを叩き込んだ。ワイヤー・メッシュ・ノーパンクタイヤも、命中の瞬間に爆発する炸裂弾を立て続けに三発も食らってはたまらず、バーストしてベンツをスピンさせた。そのまま中央分離帯に激突し、やっとベンツは停車する。

 今度こそ――龍麻がそう思った時であった。

 ベンツの中から躍り出てきたのは、黒人の少年であった。さすがの龍麻が「!?」となった時である、猛烈な殺気が目の前で膨れ上がった。

「ッッ!!」

 目には何も見えず、しかし龍麻は車体を身体ごとハングさせ、殺気の固まりをやり過ごした。しかしそれが何か理解する間もなく、道路に突然、二車線に跨るほどの亀裂が走るや、高速道路そのものが落下した。

「なッッ!? ――ブースト!」

 アクセルを目一杯捻り、前輪を跳ね上げる龍麻。それだけでは間に合わず、タイヤの両脇に付けたロケット・ブースターを始動。龍麻とバイクは狐のようにジャンプ。かろうじて亀裂の上に着地する。その瞬間――!

「!!」

 龍麻の視界が急にぶれる。次の瞬間、津波のような衝撃波をまともにくらい、龍麻はバイクごと空中に跳ね飛ばされ、彼はそのまま二〇メートル下の地面へと落下して行った。

「Crushed  him」
(潰してやったぜ)

「【21】! Come  back!  Hurry  up!!」
(【21】! 戻れ! 早く!)

 苛々したようにロシア系の少年が怒鳴ると、黒人少年はやはりケッと唾を吐いて車内に戻った。運転手がハンドル脇にあるコンソールをいじると、バーストしたタイヤの内側から補助のタイヤがせり出してくる。このベンツもただの防弾仕様車ではなかった。

 これだけの騒ぎにも関わらず、通勤時間帯の為に道路が込んでいたので、やっと現場にパトカーが駆けつけた時には、ベンツの姿は影も形もなくなっていた。もちろん、警察も拳銃どころかマシンガンまで使用され、死者一名、市民の重軽傷者多数という事件の重大性から都内全域に非常線を張り巡らせたのだが、事件当事者のベンツも、追跡していたバイクも発見できなかったのであった。









 第拾弐話 魔人 1    完



目次に戻る  前(変生(後編) 4)に戻る  次(魔人 2)に進む    コンテンツに戻る