第九話閑話 ヒーロー(?)が一杯
「――警戒中の全PCへ。日本橋瑞鳳銀行を襲撃した強盗犯はいまだ発見できず。目撃情報によると強盗犯は三人。いずれも銃器で武装。一人は自動小銃とダイナマイトを所持していると思われる。逃走車両は白のワゴン車。犯人発見の際は必ず応援を要請し迅速に制圧、抵抗の際は射殺せよ。繰り返す。犯人抵抗の際は迅速にこれを射殺せよ。なお、最終目撃情報は――」 「――もう! 秋葉クン! もっとスピード出ないの!?」 空色のスーツを纏った女性…警視庁刑事部参事官、南雲春奈警視は、隣でハンドルを握っている秋葉条一郎警部補に向かって怒鳴った。 「そんな事言っても、休日の昼下がりですよ!? これじゃ始末書覚悟でサイレンを鳴らしたって、この渋滞じゃ道を空ける事すら出来ませんよ」 「――そんな事は先刻承知よ! でもね、今日このタイミングで銀行を襲撃したのも、この時間帯を狙って実行に移したのも、全部計算の内だって事! その裏をかく為にも、ここで時間を稼ぐ必要があるのよ!」 「――でもなんで犯人が電車を使うなんて思うんです!? そりゃ、どこも渋滞しているでしょうから、車を乗り換えて逃走するのも難儀しそうですけど…」 一時間ほど前に日本橋瑞鳳銀行で発生した銀行強盗事件は、かなり特殊な条件下で発生した為に警察の対応が遅れていた。何しろ今日は日曜日、基本的に銀行は休みである。――銀行襲撃の第一報が届けられた時、警察はそれを悪戯だと断じてしまった。その後三度に渡って一一〇通報を無視、そこで銀行職員が直接近所の交番まで走り、ようやく事件が発覚したのである。 これが普通の営業日であったならば、銀行側のセキュリティが存分に役目を果たしていただろう。しかしその日は休日を利用して清掃業者が入っていた為、あらゆるセキュリティが一時的に解除されていた。そこに武装強盗が押し入り、警備会社の職員を即座に殺傷、清掃業者と銀行職員をダイナマイトで脅して監禁し、金庫の電子セキュリティを解除してまんまと現金五億円分の札束と顧客リストを奪って逃走したのである。 「勿論、五億円の札束なんて言ったら、手で持っていけるほど軽くないわ。でも真に重要なのは顧客リストの方なのよ。それもただの顧客リストじゃない。日本橋瑞鳳銀行を抱き込んで行われている大掛かりなマネーロンダリングの利用者リストなのよ。五億円は、車で逃走すると見せかける為の囮に過ぎないわ」 「…またですか」 ハンドルを握りながら、秋葉はハアッとため息を付いた。またしても厄介な事になった、というため息である。単なる銀行強盗ならば自分たちの出動にもとりあえず言い訳が立つが、マネーロンダリングが絡んでくると管轄が違ってくる。そして当然、マネーロンダリングをする人間は社会的地位のある人間か暴力団であるから、公安部が乗り出してくる可能性も大だ。――同じ警察内の人間がこちらを転ばそうと足を伸ばす様が、既に秋葉の目の前にちらついていた。 「それだけじゃないわよ」 ただでさえげんなりしている秋葉に、追い討ちの言葉がかけられた。秋葉は時々、この年下で女性の上司が自分をからかってストレス発散をしているのではないか? とか疑ってしまう。 「犯人グループの一人の身元が割れたのよ。重樹正義三七歳、元広域指定暴力団極東憂国会の構成員で、これまでに二度有罪になって服役しているわ。――で、その重樹が持ち出した銃の出所が、どうやら例の一件に絡んでいるらしいのよ」 「――ああ、あの新木場の…」 「急いでいる理由が解った? 何としても射殺される前にこっちで重樹を確保しないと、銃器がどこに消えているのか解らなくなるわ。幸い、重樹が知人を通じて都内に店を確保している事はアタシたちしか知らない。一発逆転のチャンスは充分にあるわ」 「でもですね…相手の行き先が分かっているなら近所の交番に連絡して捕まえれば良いんじゃないですか?」 「それができないから、わざわざ君の車を駆り出してまでアタシが出ているんじゃない。――この事件を仕切っている神城警視正…アイツもこのマネーロンダリングに関わっているって噂があるのよ。――恐らく今回の銀行襲撃も、仲間内で優位に立ちたい誰かが画策したか、誰かを落とし入れる為に計画されたもの。どっちにしても他の悪党仲間にはエライ迷惑な話よね。ひょっとしたら、神城警視正自身が仕掛けた事かも知れないわ」 「…ひょっとして、また例のカルト組織の事ですか? いくらなんでもそれは…。もしその大胆に飛躍した推理が正しいとしたら、神城警視正が射殺命令を出したのは、証人を消す為に?」 「なんか気に入らない言い方ね。――まあ、その通り一石二鳥…三鳥の策よ。リストを手に入れれば神城の立場も上がるでしょうし、自分にとって都合の悪い証人を消すと同時に、重武装している犯人の射殺許可を素早く決断して市民を守ったという事で世間の評価も高まるわ。それは彼の賛同している《シグマ》構想の良い宣伝にもなる。――旨く行けばね」 「なるほど、良く解りました」 秋葉は大きく肯いた。 「つまり、犯人を無傷で捕らえる事が出来れば、あなたは銀行強盗を捕まえ、マネーロンダリング事件を解決し、銃器密輸事件に解決の糸口を付け、《シグマ》構想への牽制をもこなすという事になりますね。――間違ってもそれで若林警視に貸しを作るとか、マネーロンダリングに関わった人間の弱みを握ったとか、そういう事は言いませんよね?」 「……………勿論よ」 「随分考え込んだみたいですけど、そういう事なら僕も最大限の協力を惜しみません。――でもなんで秋葉原に向かっているんです?」 どうやら考えを見抜かれて悔しがっているらしい南雲に、秋葉はほっとするのと緊張するのと半々に、それとなく話を変えた。 「…秋葉原には何がある?」 「言わずと知れた電気街ですね。あと、少し離れたところに問屋街が…ああ、重樹が確保した店というのが、その周辺にあるんですね?」 犯人の逃走車両は白のワゴン。ありふれた車両だが、電気・服飾などの問屋街が軒を連ねている秋葉原界隈では特に利用者が多い。しかも商品の運搬に伴い、路上駐車など当たり前。そんな所に犯人が逃走車両を乗り捨ててもそれと気付くまでに時間が掛かるし、店の中に荷物を運び込んでいる光景はごく自然で、運んでいるものが札束だろうと金塊だろうと、おいそれと見抜けるものではない。そして出遅れた感のある警察は、犯人が一刻も早く首都圏を脱出するものと見て検問を近県にまで広げている。そんな目と鼻の先に犯人が潜んでいるとは思いもよるまい。――犯人の一味以外は。 「そういう事。奪った金と銃を店に隠し、本人達は電車で首都圏を離れるのよ。今時の強盗は金を持って逃走なんて古臭い事はやらないわ」 「また勝手な事をやってとなじられますね。色々な人に」 「あら、アタシは気にしないわよ。――無能な人間の遠吠えを聞くのも有能な人間の務めですもの。オ−ホッホッホッホ!」 「…そういう笑い方は止めてください。それに、無能なんて決め付けたら反感を買うのも当たり前です。ただでさえ僕らノンキャリアはあなた方キャリアに反感を持っているんですから」 「あら? それじゃ秋葉クンは、アタシの事が嫌いな訳?」 「僕個人の事じゃありません。例えば今回の件に限っても、射殺命令を出すのは雲の上の人で、実行するのは現場の人間 「言いたい奴には言わせておけばいいのよ。そういう連中は他人事に首を突っ込んでキャンキャン喚くしか能がないんだから。――そんなのをいちいち気にしていたら警官なんか務まらないわよ」 ひとしきり笑った後、南雲は急に表情を引き締めた。 「ま、大多数の真面目な警察官を失望させない為にもこの一件、早く決着を付けないといけないのよ。もし君言う所の大胆かつ精妙なアタシの推理が当たっていたとしたら、警察の、それも警視正クラスの人間があの銃器密輸に関わっていたという事になるのよ。奈々――若林警視が事もあろうにこのアタシにこのネタを持って来た意味を考えて」 いつもけだるそうに、あるいは楽しんでいるとしか思えないような態度で仕事に臨む彼女らしからぬ真剣さに、秋葉も表情を改めた。確かに《優等生》と陰口を叩かれるほど潔癖症で真面目な若林警視が、傍若無人、唯我独尊を絵に描いたような南雲に助けを求めるなど、これまでにはなかった事だ。それは警察の正義を信じ、自他共に有能と認める彼女をして、昨今の事態が巨大すぎて手に余るという事なのだ。そして今、警察内に育ちつつあるカルト的組織に属していないと自信をもって言い切れるのは南雲くらいなものなのだ。 「つまり…若林警視も本気…覚悟を決めたという事ですか」 「ま、ようやく柔軟な考えに目覚めたってところかしら。――そろそろね」 既に周辺は様々な衣料関係の問屋で埋まっている。ただし日曜日なので開いている店そのものは少なく、駐車場には似たようなワゴン車が溢れている。 店の場所が分かってもこれは苦労しそうだ。秋葉がそう思いかけた時、前方の路上で荷を積み直しているワゴン車を発見した。 まさかそんなに都合良く見つかる筈ない。――秋葉はその考えを0・5秒で翻さざるを得なかった。ダッシュボードの回転灯を見たものか、作業着姿の男がワゴン車の中から自動小銃を引っ張り出したのである。 「南雲警視! 伏せて!!」 時速四〇キロの低速走行ではあったが、急ブレーキがタイヤにけたたましい悲鳴を上げさせる。フロントノーズが交通標識を倒すのも構わず手前の路地に跳び込む直前、自動小銃…M16A2が吠えた。 ――バババッ! バババッ! バババッ! 三点射で三回…九発の高速弾が後部ドアをたやすく貫き、リアシートを引き裂いた。現在の日本車の多くは重量軽減の為に鉄板を使わず、事故に備えての補強も殆ど行われていない。軍用の五・五六ミリ高速弾の前には、秋葉個人所有のセダンなど紙模型も同然であった。 「ああ! まだローンが五回も残っているのに!」 「そう思うなら何で逃げるの!?」 自動小銃で撃たれて、まだ余裕ありそうな秋葉の悪態に南雲が噛み付く。彼女は既に愛用のブローニングM1910をバッグから掴み出していた。本来、警察官の拳銃は署内のロッカーに厳重に保管され、凶悪事件が発生し、且つ拳銃携行許可が下りないと持ち出してはいけない事になっている。当然、敵の多い南雲がそれを守る筈もなく、当然、常識的思考を持つ秋葉は丸腰であった。 「自動小銃相手に拳銃一丁で何をするって言うんです!? 応援を呼ばなきゃ逮捕もなにも、こっちが先に殺されますよ!」 「根性無し! 役立たず!」 「何とでも言ってください!」 路地はやっと車一台が通りぬけられる幅しかない。道端のポリバケツやら何やらを弾き飛ばしつつセダンは疾駆し、大通りへと出た。すると犯人たちも闇雲な逃走に移ったものか、ワゴンが目の前に飛び出してきた。 「追って!」 南雲の叱咤。思わず従ってしまうのは、やはり警官の義務として犯人を追わねばならないからだ。決してこの《女王様の命令》に逆らえないからではない。 「オーホッホッホッホ! ここで遭ったが百年目! このアタシから逃げられるとは思わない事ね!」 シャキン、と南雲の手元で金属音が鳴る。ブローニングの遊底を引いたのだ。 「南雲警視! こんな街中で発砲するつもりじゃないでしょうね!?」 「――勿論、そのつもりよ!」 「無茶言わないで下さい! 流れ弾が市民を傷付けたらどうするんです!? それに向こうはダイナマイトだって持っているんですよ! 慎重にしないと…!」 「慎重にしたって状況は変わらないわよ! ――運が悪けりゃ死ぬだけよ!」 昔のドラマそのままの台詞に秋葉は怒るよりも呆れてしまった。 しかし、南雲の言い分も分かる。慎重を期そうが強硬手段を取ろうが、自動小銃にダイナマイトまで持っている犯人が相手では危険度は同じなのだ。むしろ自動小銃が使い難い車内にいる間に決着を付けてしまう方が、この場合は正解と言えそうだ。 南雲は窓を開け、半身を乗り出した。バランスを取る為にシートの上に足を上げたので、見事な脚線美がかなり上の方まで露になる。――世の男どもがクラッと来そうな光景だが、幸い秋葉は多少マシな理性があったので運転ミスをする事はなかった。 ワゴンの車内に、こちらに拳銃を向けようとする男の姿が見える。 「――行くわよ!」 しなやかな指がブローニングのトリガーに掛かる。一瞬後、その銃口が火を噴こうかという時―― 「――ッッ!!」 けたたましいタイヤの金切り声が強引にセダンの前に割り込んだ。威圧的な黒のオフローダー。秋葉が寸前でブレーキを掛けたので接触は免れたが、射線を奪われた南雲が舌打ちをする。 「もう! どこの馬鹿よ!」 悪態を吐きつつ車内に戻った南雲は、オフローダーの屋根が開き、そこからショットガンを握った男が現れるのを見た。 「南雲警視!」 「秋葉クン! 避けてッ!」 ショットガンの銃口がこちらに向く前に南雲はもう一度身を乗り出し、とにかく相手の身体目掛けて発砲した。 32ACPの空薬莢が、金色の尾を引きつつ南雲の頬を掠めて吹っ飛んでいった。 東京都千代田区某所、某更衣室、一二五〇時。 「ああ! もう! やめやめ! 大体何で俺がこんなギンギラギンな格好しなけりゃならねェんだよッ!」 「…やむを得んだろう。お前が地顔が出るのは嫌だと言うから」 「だからって厚化粧はねェだろッ。それ以前に! なんで俺達がこんな事しなきゃならねェッ!?」 「他ならぬ仲間の頼みだ。断る訳にも行くまい」 「紫暮ッ! お前、なに成り切ってんだよッ!?」 「うるせえなあ、京一。俺サマだってこんな格好するのは嫌だけどよォ。龍麻サンの頼みじゃ断れねェだろ?」 「雨紋…テメエ…自分だけ完璧に顔を隠しやがって…!」 「ん!? 気のせいだよ、気のせい」 「マスクの上から頭掻いて誤魔化すな! 余計ムカ付くんだよッ!」 「いいかげんに君も観念したまえ、蓬莱寺君。僕だってこんな格好をするのは屈辱の極みだ。もしこの格好に深い意味があるのならば、いかに上客の龍麻君と言えど…!」 「…その格好で殺気を放っても面白いだけだから、やめとけ」 休日に突然の召集を受けた《真神愚連隊》の面々がそんな事を話していると、今回の《事件》の発端を作った男の片割れが笑いながら控え室に入ってきた。 「HA−HA−HA。久し振りだネ。ヤ○トの諸君。――もうすぐあっちのショーが終わるネ。ミンナ、準備はOK?」 表は黒、裏地は赤のマントをはおり、顔を青く塗ったアランが笑う。先日仲間になったばかりの彼だが、さすがはラテン気質。既に《真神愚連隊》のムードメーカーである。 「OH! ミンナ、素晴らしい出来栄えネ! イメージぴったりだヨ!」 「僕としては、そのイメージの出所を知りたいところなんだけどね…」 「OH…ヒスーイ、そんな顔してちゃお客さんに受けないネ。スマイル、スマイルよ」 この部屋…控え室の中で、一番不本意だと思っているのは、実は京一ではなくて如月なのである。しかし龍麻たっての願い(命令?)を断れなかったのは、先日株式投資に絡み、龍麻の助言のお陰で二百万近い損を抱えるところを危うく回避したばかりか、逆に三百万近い利益を得る事ができたという借りの為であった。 「如月…。気持ちは判るが、せめて俺達は顔がはっきりと出ないだけマシとしよう。あの大観衆を相手に紫暮もアランも、素顔を晒しているのだからな」 「醍醐君…」 仲間内では一番常識人で、実直な男の慰めの言葉に、思わずこみ上げてきてしまう如月であった。しかし、やはり、この面子で、この状態で顔を見合わせると、こみ上げるものは涙だけではなかった。 「うっ、ぷっ、くっ…ぷくくっ!」 「醍醐君…君って男は…!」 彼とてイメージに意味を持たせるならば、こんな格好をさせられた事にもっと怒っていい筈だ。それなのに彼の場合、タイツもマスクもあまりにハマり過ぎていて、如月は笑うに笑えない。何より彼はまだ――《その事》に気付いていないのだ。 「キョーチ…なぜカツラ取ってるデスカ?」 「うるせェ! なんだってこんな馬鹿みてえな事に俺達を巻き込むんだよ!」 「チッチッチ…キョーチ、ここでそんな迂闊な事を言っては危ないネ。生きてここを出られなくなるヨ」 「ケッ、こんな格好で表を歩くよりゃマシだぜ!」 その時、開きっ放しのドアから何かが飛んできた。 「ウオッ! モガガッ! ワンワワァワ(何だコリャ)!?」 「…文句が多いぞ京一。早く着替えろ」 京一の口元に絡み付いたのは極小のスパイ○ーネット。スルスルスル…と、天井から逆さまに降りてきたのは、アメリカン・コミックのヒーロー、スパイ○ーマンその人であった。ただし原作そのままではなく、東映特撮バージョンである。 「スッゲー…気合入ってるな、龍麻サン」 「いっそあそこまで成り切れれば見事なものだな」 実際、コスプレと言うには龍麻扮するスパイ○ーマンはハマり過ぎであった。――衣装の出来が良すぎるのである。何でも龍麻には手芸が得意な知り合いがいるそうで、多額の報酬を払ってこの衣装を発注したらしいが、それこそ東映の衣装係が務まりそうな出来栄えであったのだ。各自の採寸を行ったのが本人ではなく龍麻であった事を考えると、空恐ろしいほどの腕前である。 更に、一体どのような技術の持ち主なのか、スパイ○ーマンの衣装には強力な電磁石やら高張力ワイヤーやら超小型モーターやらが巧みに仕込まれ、《本物》のスパイ○ーマンを再現しているのだ。そこに龍麻の身体能力が加われば、彼こそが《真》のスパイ○ーマンである。 「間もなく我々の出番だ。各自装備を最終確認せよ。小蒔の弟達も全員見に来ている。張り切っていくぞ」 再びスルスルスル…と天井に消えていく龍麻。一体あの男は何をやっているのだろう? ひょっとして廊下も、天井にへばりつきながら移動しているのだろうか? その光景を想像すると、果たして笑えばいいのか青ざめればいいのか判らぬ一同であった。 「…やむを得ん。こうなったら毒食らわば皿までだ。京一、観念しろ」 「テ、テメエ、醍醐! テメエだって嫌がってたくせに!」 「安心しろ蓬莱寺。顔ははっきりとは出ぬ」 「お、俺は最初から嫌だって言ってるんだ! 馬鹿馬鹿しい! 付き合ってられるかッ!」 憤然と控え室を出て行こうとする京一の腕がガシッと掴まれる。 「君だけ一人逃げるつもりかい? ――そうはさせない。君も一緒に不幸になれ」 「き、如月! この、カメ野郎!」 「カメ…?」 この一言で、如月がキレた。常に冷静沈着、座右の銘は《無》、学校では《アイスマン》と陰口を叩かれるほどの冷淡さを誇る彼が、そりゃもう、一瞬で。 「そうか蓬莱寺君…! それほどまでに今日を命日にしたいのならば…!」 如月の《気》が張り詰め、水道の蛇口から勢いよく水が噴き出す。水は彼の周囲で渦を巻き、二メートル強の水竜と化す。 「ちょ…と! 如月サン!」 雨紋を始め、醍醐たちが止める間もあらばこそ―― 「《水流尖》ッッ!!」 「――おわあッ!」 あの如月が我を忘れて放った奥技! 京一は水の竜巻に巻かれ、控え室の窓を突き破って表に放り出された。 「き、如月! こんな所で奥義を使うな!」 「HEY! キョーチはまだカツラを付けてないネ!」 そのアランの一言で、全員がはっとして沈黙した。恐る恐る全員が顔を見合わせ、そして同時に叫んだ。 「見に行こう!!」 「ウワアア――ッッ!」 如月の《水流尖》に吹っ飛ばされた京一は、何やら固い板の上に放り出された。 「いってえ――ッ! あの馬鹿! 無茶しやがって! ――って、おおおおおおッッ!!?」 と、腰をさすりさすり立ち上がろうとした京一のアイシャドウを散らした目が、驚きのあまり本当に半分ほど飛び出した。そこは、なんと、コスプレイベントの舞台だったのである。 事件が起こっている訳でもないとある休日、龍麻の唐突な招集を受けた《魔人》たちを待っていたのは、ここ、後楽園遊園地で行われるコスプレイベントだったのである。 「…お、おおっと! これは意外なところからの登場だ! 皆さん! 盛大な拍手をこの赤毛のオ○カル様にお願いします!!」 機転の利く司会の強引な仕切りに、会場は一転して爆笑の坩堝と化した。 「京一ィーッ! カッコイー!」 たくさんの弟妹を引き連れた小蒔が、最前列から声援を上げる。その隣には葵が、藤咲が、高見沢や裏密までがいた。 「ホーホッホッホ! かつらも忘れて出てくるなんて本ッ当に京一ってお馬鹿サンね!」 「キャーッ! 宝塚な京一君ってカワイ〜ッ!」 「うっふふふふふふふふふふふふふふふふ〜〜〜っ、今度本当に改造しちゃおうかな〜〜っ」 引き締めれば美形な京一に、《べ○サ○ユの薔薇》の《オ○カル様》の衣装の組み合わせは絶妙であった。たとえ金髪のカツラを忘れていてもばっちり化粧まで(龍麻の仕業だ)決まっているので、《それ》系が大好きな女性ファンからいっせいに黄色い声援が上がった。 「お、俺は違うんだ! 出演者じゃねェぞ!」 全身で弁解しつつ舞台の袖から逃げようとする京一。しかし正に《引っ込みが付かない》状態。そこに折り良く、《ベ○薔薇》の《ア○ドレ》のコスプレをした威丈夫が舞台に登場する。そして―― 「おおオ○カル。赤毛の君も美しい」 再び上がる、黄色い声援。ア○ドレも中々美形タイプで、しかも何だか京一を見る目の中にキラキラと星が輝いている。 「な、なに言ってやがる! こっち来るんじゃねェ!」 思わず腰の剣(勿論玩具、コスプレ仕様)を抜いて後ずさりする京一。しかし既にキャラに入ってしまっているコスプレイヤーに、そんな声が届く筈もない。この場合はむしろ、煽ってしまった。 「おおオス○ル。俺の前では男のフリなどしなくてもいいと言った筈だ。さあ、俺の胸に飛び込んで来い!」 再び、「キャーッ!!」である。そして無論、京一がここに引っ張り出されている理由を知っている《魔人》の女性陣は、息もできないほどの大爆笑である。 その光景を、舞台の袖で見ている《魔人》の男どもも、《次は自分だ》という現実から目を逸らして爆笑していた。 「ほほう。京一め、嫌がっていた割にはウケているではないか」 「おわッ! 龍麻サン!」 突然天井から逆さまになってぶら下がった龍麻に度肝を抜かれる一同。この男、本気で天井を這いまわっているらしい。 その時、舞台の方で京一の「んぎゃああああぁぁぁっっ!!」という魂切る悲鳴が聞こえてきた。見ればオ○カル(京一)がアン○レに抱きすくめられて悶絶している。ここからでははっきりしないが顔が重なっているようで、最前列にいる女性陣は皆一様に《とんでもないモノを見た》という顔で、しかし非常に嬉しそうに黄色い声援を送る。 「ふむ。相手役の男はホモセクシャルであったか」 「た、龍麻…!」 事も無げに言い放つ龍麻と、親友を襲った運命(!)に対してさすがに絶句する醍醐であった。 「よし! 京一は見事にウケを取った! さあ醍醐! 京一に続け!」 「つ、次は俺なのかッ!?」 あの地獄絵図(一部女性には目の保養)の直後に出て行けというのか!? この時ばかりは醍醐も龍麻に(本気で)殺意を覚えた。しかしその肩に大きな手が置かれる。モノゴッツイ手甲を付けた手だ。そして頭にも、二本のぶっとい角を付けたヘルメットをかぶっている。何より、その目つきの鋭い事…。 「案ずるな醍醐…この俺も共に行くぞ…!」 「し、紫暮…!」 (成り切ってる…!) 龍麻に続いて、まさか紫暮が…!? 落ち着いて考えてみれば、決してあり得ない事ではなかった。そもそも男の子が空手やボクシングを始める切っ掛けは《空手馬鹿一代》や《柔道一直線》(古ッ!)、若くして亡くなった偉大なカンフー・スター《ブルース・リー》や、架空のキャラクターでありながら現実に葬式まで出されたという力○徹を排出した《明日の○ョー》などに触発されて…というのがほとんどである。紫暮の場合は家が空手道場であったが、《強い男》のモデルとなったのは《北○の拳》だったのだ。仲間内で一番硬派だと思われていた紫暮だが、実は舞園さやかが好きなど、意外にもミーハーなのであった。 「良くぞ言った。アラン、テーマソングを」 「OK。タツマ」 アランが進行係に合図を送り、少し古いが誰もが知っている《タ○ガーマ○ク》の勇壮なテーマソングが流れ出した。 変化はその瞬間に起こった。醍醐の剥き出しの上半身が倍にも膨れたかのように筋肉が盛り上がる。 「ッッ!? ――オオオオッッ!!」 雄叫びを上げ、弾かれたように舞台へと飛び出していく醍醐。一同は(恐らく龍麻も)目を見張った。あまり敏捷性に優れる訳ではない醍醐が側転し、バック転を三回、最後にムーンサルトまで決めて見事に舞台に着地したのである。虎のマスクを被り、真っ赤なマントを翻す彼に、会場が沸きに沸く。子供たちの歓声に混じり、小蒔は―― 「だ、醍醐クンッ!?」 ――本名で呼んでしまった。 「ちょっと…醍醐って鈍足だったわよね?」 「そ、その筈だけど…」 「きゃあぁぁぁぁぁぁん、舞子、困っちゃう〜〜〜っ」 「うふふふふふふふふふふふふふふ〜、大成功〜。素敵よ〜、醍醐く〜ん」 誉めているのか馬鹿にしているのか解らぬ女性陣の話し声は聞こえているだろうに、醍醐は一切感知せず筋肉を誇示するようにポーズを取り、次の瞬間には二メートルも飛び上がってサマーソルトキックやローリングソバットなどを披露する。――他のコスプレイヤーはせいぜいポーズや台詞どまりだったので、これには会場が多いに沸いた。 「ほほう。醍醐もやるではないか」 しかし、それはどう見ても彼らが知る醍醐ではない。 「だ、醍醐サンがキャラに入っちゃったぜ…」 なんとなく、否、物凄く嫌な予感と共に、如月は龍麻を見た。 「龍麻君…ひょっとして君が、彼に何かしたのかい?」 「うむ。あのままではどうあろうと嫌がると思ってな。あのテーマソングがかかると自分をタイ○ーマ○クだと思い込むように、裏密の協力のもと催眠術をかけておいたのだ。――それにしても、これほど効果が高いとは」 「龍麻君…まさか僕にまで…?」 それ以上は恐ろしくて声にならなかった。醍醐の事にしても、いったいいつそんな催眠術を彼にかけたというのか!? 「そんな訳なかろう。飛水流忍者の正統後継者であるお前に催眠術ごときが効く筈あるまい」 その龍麻の言葉にほっとしたのも束の間、 「――従って、仕掛けはコスチュームに施しておいた」 だっと身を翻して逃げようとする如月。しかし三歩と走らぬ内に彼の身体は強制的に急停止した。 「龍麻君! 君は何を…!」 「慌てるな如月。お前の出番は雨紋の次だ」 ドンデンドンデンドンデンドンデンドンデン! ジャジャチャ〜ラ〜ラ〜ラ〜ラ〜ジャジャジャン! この男が登場する際には、この曲がなければ決まるまい。《世紀○覇王のテーマ》である。その曲に乗って鎧に身を固めた紫暮がマントを翻しつつ舞台に登場すると、今度は男性ファンからの声援が上がった。身長も肉体も、いかつい顔つきに至るまで、まさに彼は世紀末覇者ラ○ウ! 大歓声に包まれ、紫暮はおもむろに右拳を天に突き上げた。 「我が生涯、一片の悔いなし!」 どっと沸く会場。大受けである。 「…出て行ってすぐに死んでどうするのだ」 冷静な龍麻のツッコミ。ごもっともである。(解らない人は《北斗○拳》を読み返すべし) 「雨紋。準備は良いか?」 「俺サマはOKだけどよ…あっちはまだ盛り上がってるぜ。良いのかな、ここで出て行って?」 見れば舞台上ではタイ○ーマ○クと世○末覇者ラ○ウがめったに見られない大勝負を(割と本気で)繰り広げている。共に巨漢だし、《力あるもの》だし、徒手空拳の武道家だし、確かにシューティングやパンクラスの試合を生で見ているような迫力がある。おまけにライブなのにラ○ウは必殺の闘気弾(実は掌底・発剄)を打つし、タイ○ーマ○クはなぜか電撃を帯びたサマーソルトキック(稲妻レッグラリアート?)を繰り出す。観客は演出だと思っているらしいが、主催者側はあからさまに「どうやっているんだ?」と首を捻っている。 「…ふむ。一般人の前で《力》を用いるのは厳罰ものだが…この場合は許す!」 「ゆ、許すんかい!」 「安心しろ雨紋。思い切り派手に登場するが良い。さあ行け!」 「お、おうッ!」 背中をどやされ、雨紋も舞台の上に飛び出した。既に舞台上はパニックに等しい戦いの場だが、観客は大いに盛り上がっている。 「待て待てェイ! ――天が呼ぶ! 地が呼ぶ! 人が呼ぶ! 悪を倒せと俺を呼ぶ! 仮面○イダー、スト○ンガー!!」 突然飛び出してきた往年のヒーローの手から激しく火花(本物)が飛び散る。観客は大爆笑&大喜び。子供たちは総立ちである。そしてラ○ウとタ○ガーマ○クが振り返る。 「笑止! 返り討ちにしてくれるわ!」 「行くぞ!」 もはや舞台上は大混戦である。司会者は半ばやけくそになって司会進行する。他のコスプレイヤー達も唖然としているが、どえらい新人が現れたと無理矢理納得して、一緒になって楽しんでいる。――正しいイベントの過ごし方である。 「…何のかんのと文句を言っていた割に、みんな乗り気ではないか」 「HA−HA−HA! 楽しーネ! いよいよヒスイも出番ネ!」 「た、頼む! 龍麻君! 見逃してくれ!」 目元だけしか隠していないマスク越しに目の幅涙を流しながら懇願する如月、しかし龍麻は無情にも「否定だ」と告げた。 「さあ行け!」 「HA−HA−HA! GO−GO−GO!」 「う、うわあっ!」 如月の意思に反して、一気に舞台に飛び出していくコスチューム。そのコスチュームは超小型モーターが仕込まれた、本来は医療用リハビリテーションスーツであった。患者の筋肉の動きをサポートし、歩行訓練を始めとする様々なリハビリに活用されるこれは、いずれ身体障害者の希望となり得るだろう。――最近ではアメリカ軍がこれを歩兵用個人兵装…パワード・スーツ研究に利用しようなどという動きがあるようだが、けしからん話である。 ただし、この使用法も決して正しいとは言えまい。 「き、き、如月クンッ!!?」 如月の登場と共に、観客の歓声は今までとは違うどよめきとなった。 (ああ桜井君…! こんな所で僕の名前を呼ばないでくれ…!) 「ぶっ、くっ、ぶわはははははっっ!!」 (藤咲君…その女性らしくない笑いはやめてくれ…) 「キャー! 如月君、かっわいイ〜〜っ!」 「うっふふふふふふふふふふ〜〜!」 (……) 目の幅涙をぶわわーッと流しつつ舞台の上で珍妙に踊っている(カンフー?)のは、かのアメリカン・ニンジャ。ミュー○ント・ニン○ャタートルであった。しかし、目元だけ隠す変なマスクとタラコクチビルを付けられ、甲羅の付いた着ぐるみをまとっているのは、めったに見られないほど美形の、如月翡翠なのである。 ただでさえ異様なほど盛り上がっていた会場のボルテージは、この時点で最高潮を迎えていた。 「HA−HA−HA! ヒスーイも負けてないヨ! なんだか彼が一番似合ってるネ!」 「説明しよう。如月は忍者だ。そして飛水流忍者の守護神は四聖獣の一つ、玄武。玄武と言えば、亀。亀と忍者の組み合わせと言えば、まさにあれしかなかろう」 「…タツマ、誰に説明してるネ?」 耳ざとい如月には、そんな龍麻とアランの会話も聞こえている。 (おじい様許してください…たとえ彼らが《あれ》であったとしても、僕はこの手で決着を付けずにはいられません…!) そんな物騒な決意を如月が固めたのも知らぬげに、龍麻は天井から地上に降りてきた。 「さて、スーツの調整も済んだ事であるし、そろそろ俺の出番だが…はて、何か騒がしいな?」 既に笑いの坩堝と化している会場の歓声にまぎれているが、なにやら遊園地内が物騒な喧騒を放っている。見れば東京ドームの入り口付近から黒煙が上がり、人々の悲鳴が上がっているようだ。しかもそれはこっちに向かっているようだった。 そしてそれは突然、子供の悲鳴にとって代わった。 「む!? あれは…!?」 「HEY! こんな演出、知らないヨ!」 歓声と笑いが悲鳴と変わる。目出し帽に自動小銃を持った三人の男が突如会場に乱入し、手近の子供を掴み上げて舞台に駆け上がったのである。 「ええい! 静かにしやがれ!」 「な、なんですか君たちは!?」 司会がうろたえる。そこで馬鹿騒ぎをやっていた《魔人》たちも気が付いた。これは、演出などではない事に。 「兄貴ィ! こんなに人が一杯いたら逃げられねェッスよ!」 「馬鹿野郎! うろたえんじゃねェ! ――お前等ァ! これを見やがれ!」 その男たちに若干遅れて駆け付けてきた武装警官が舞台に駆け寄ろうとするのへ、自動小銃を持った男が上着の前を開いて見せた。 「うッ…!!」 男の胴にぎっしりと巻かれている、幾本もの棒とリード線。そして時計の数々。その男は体中にダイナマイトを仕掛けているのであった。 「おおっと! 誰も動くんじゃねェぞ! 妙な真似するとドカンだぞ!」 つまり、観客の避難も許さないという事か。現場は騒然となり、舞台の上でコスプレイヤー達も固まっている。その中で《魔人》たちは手指だけで話し合った。 (オイ、あれ、本物かな?) (あれが噂のSAT(警視庁特別急襲機動隊)だとしたら、間違いなく本物だろう。下手に刺激すると危ない) (はっ、ここはどこだ!?) (醍醐…戻ったか) (弱ったな。三人くらいどうとでもないが、強行すると人質が危険だ) (龍麻はどうした!?) (そう言えば、姿が見えんが…) 「ちょおっと待ったあッ!!」 単なるコスプレイヤーならぬ《魔人》たちが「さてどうしようか?」と考えていると、鋭い叫びと共に新たなコスプレイヤーが三人も舞台に跳び上がって来た。 一度はシン、と静まり返った会場で子供達が歓声を上げる。見ればその三人は先ほどのヒーローショーの出演者だ。とは言っても、テレビで放映中のそれではなく、都内のどこかで活動している自主制作ヒーローであるらしい。何しろ赤(レッド)が野球のバット、黒(ブラック)がサッカーボール、桃(ピンク)が新体操のリボンを、それぞれ武器にしているといういかがわしさだ。子供達のウケが頗る良いところから、人気はあるようなのだが…何しろ《この》後楽園でショーを任されている事でもあるし…。 「――この世に悪がある限り!」 「――正義の祈りが我を呼ぶ!」 「――練馬と、この後楽園の平和を護るため!」 「――三つの心を一つに合わ…!」 PAN! PAN! PAN! 「うわわわわッ!! ま、まだ俺ッちの台詞が終わってないのに!」 「ピ、ピストルなんてずるいぞ!」 「ちょ、ちょっと! 大事な決め台詞のところで段取りを…キャアッ!!」 PAN! PAN! どうやらヒーローたちは銃を持った乱入者たちを新たな演出だと思ったようだ。しかし《本物》がヒーロー番組の《お約束》など守る筈はなかった。ヒーローたちはどこかローカルな単語の入った決めの口上を邪魔されたばかりか、本物の銃弾を撃ち込まれ、レッドのバットがへし折られ、ブラックのサッカーボールが破裂させられた。 「何がヒーローだ! テメエら馬鹿か!?」 この時点でやっとヒーローたちは、乱入者が本物の強盗である事に気付いたか、腰を抜かして舞台にへたり込んだ。――そりゃそうである。考えてみればヒーロー番組の悪人ほど、フェアプレー精神溢れる敵はいないのだ。《お約束》を守ってもらえなかったヒーローなんてあっけないものだな、と、《魔人》たちは妙に納得してしまった。 一方で、警官…らしき連中も動かない。周囲の一般市民に対して避難を呼びかけようともしない様子に、《魔人》たちは「おや?」と首を捻る。しかもその連中――子供が人質にされているのに犯人たちに銃を向けたではないか!? 「オイオイ、何だか様子が…」 京一が仲間たちに注意を喚起しようとした時である。突然、無理に口調を取り繕った底抜けに明るい声がスピーカーを通じて流れた。 「フッフッフ。久しぶりだねヤ○トの諸君。 どうやらとんでもなく悪い奴らが現れたようだネ。ヒーローたちがピンチのようダ」 「あ、アラン!?」 司会のマイクを引ったくり、珍妙な台詞をかましているのは誰あろう、《魔人》の一人、アランであった。 「フッフッフ。安心したまえ、そこのボク。もう怖がらなくても良いのダ。私の友人たるヒーローが諸君を助けに来てくれる」 「な、なんだテメエは!」 いきなり現れたデ○ラー総統に怯んだのも束の間、強盗団はアランに食って掛かった。警官(?)たちも呆気に取られている。 「フッフッフ…。ユーたち、悪いコト言わない。名誉ある敗北を受け入れるならば、身の安全は保障しよう」 「なんだとお!? この餓鬼、マジでイカレてやがんのか?」 自分達には銃があり、ダイナマイトまで持っているという事が優越感を増長させているのだろう。確かに迫力不足だが、アランの脅しにも一歩も譲らない。 「これは親切で言ってるのだヨ。ヤ○トの諸君。このワタシの楽しみを無粋なオモチャで汚すのは止めてくれたマーエ」 「アホか…」 自動小銃の《兄貴》は付き合いきれないというように頭を振り、仲間に顎をしゃくった。 「殺しちまえ。そんな馬鹿」 「ヘイッ、兄貴」 そう言って目出し帽が銀色のトカレフ(再生ノーリンコ)をアランに向けた時であった。 突然、アランはマントを翻し、空を指差した。 「――見たマエ! 今こそ、真のヒーローが降臨する!」 その瞬間の口調は、元アメリカ海兵隊アラン蔵人伍長。思わずその指先を、その場にいる全ての人間が追う。魔人たちも、観客も、犯人や警官も例外ではなかった。アランは天性の司会者であった。 ――ゴオオオオオォォォォッッ! 唸りを上げて走ってくるジェットコースター! その車両の上に、誰かが立っている。後楽園名物、ジェットコースターに乗って現れるヒーロー! しかし、そのアトラクションは既に今日の分を終えている。そしてその上にいるのは…!? 「エエエッッ!?」 「ウソッ…!」 葵と小蒔が絶句する。しかしその理由を藤咲たちが問う前に、アランがマントを閃かせ、叫ぶ。 「さあ諸君! 力の限り呼びたマエ! ――我らがヒーロー! スパイ○ーマン!!!」 子供の純情か、これを全て演出と見たか、それともただのやけくそか、その場にいる者たちのほとんどがアランの呼び声に唱和した。 「テメエ! ふざけてんじゃ―――!!」 《兄貴》の声は途中で消えた。 後楽園のアトラクションでは、ヒーローがジェットコースターに乗って現れる。しかし、決してこんな真似はしない。――時速六〇キロで疾走するジェットコースターから、そして二〇メートルもの高さから飛び降りるなど!! わあっと会場がどよめく中、スパイ○ーマンは手首から射出したワイヤーを使って大きく振り子運動をして、これ以上はないほどに格好良く宙返りしながら舞台に下り立った。 「ズバッと参上! ズバッと快傑! インドの山奥で修行した、人呼んで月よりの使者! スパイ○ーマン!」 なんか色々混じっている上に意味不明だが、見た目の格好良さは非の打ち所がなく、会場は怒涛のような歓声に包まれた。 「な、何だテメエは! とんでもねェ出方しやがって!」 顔中を口にして喚く自動小銃男に、スパイ○ーマンは口笛を吹き、チッチッチ、と舌を鳴らした。 「子供達の遊び場に銃器を持ち込み、楽しいイベントを妨害し、あまつさえ子供を人質にして狼藉三昧。――許さん!」 やはり何か色々混じった口上。――そこで小蒔はとんでもない事に気付いた。 「あ、葵! ひょっとしてひーちゃんもアランクンも、あいつらが本物だって判ってないんじゃあ…!」 「ええッ!?」 指摘されてみれば、何しろ《あの》龍麻である。元アメリカ陸軍特殊部隊隊員と、アメリカ海兵隊に所属していたアラン伍長。 (有り得る――!!!) 彼女達の推察は、ものの見事に的中していた。 「ッ殺せ!!」 目出し帽のチンピラ二人のトカレフが火を噴いた瞬間、龍麻は激しく身体をスピンさせながら横っ飛びした。香港映画などで見られる技法、香港スピンである。見た目の派手さを売りにする香港映画ではおなじみの技だが、それは実戦の場面でいきなり使うと、相手の目を幻惑する効果を持つ。ついでに、この場面ではめちゃめちゃ格好良い。 (ムッ!? 実弾を使うとは、安全面への配慮が足りんぞ) もう一つ、龍麻は誤解コンボ男であった。 「スパイ○ーネット!」 弾丸をかわされて度肝を抜かれた犯人の一人に、魔物でさえも捕える特製の捕獲ネットが絡み付いた。これで一人―― 「うわあっ!」 突然目の前に現れたスパイ○ーマンに驚き、トカレフを向けた犯人だったが、スパイ○ーマンは頭上高くにある鉄骨にワイヤーを絡み付け、一気に一〇メートル以上も垂直に飛び上がった。次の瞬間には犯人の身体にワイヤーがぐるぐる巻きに絡み付き、スパイ○ーマンが落下するのに合わせてあっという間に空中へと吊り下げられてしまった。これで二人―― 「こ、こいつ!」 どう見てもふざけているとしか思えない――しかし本物のスパイ○ーマン! 自動小銃男は頭の中をぐしゃぐしゃにしながらも、とにかく銃をスパイ○ーマンに向けようとした。その瞬間、カッと硬い音を立てて自動小銃が二つになった。「キャー!」と上がる黄色い歓声。復活したオ○カルが手近にあった模擬剣を一振りしたのである。剣はオモチャでも、遣い手は京一だ。一撃で自動小銃は破壊された。 次の瞬間、犯人に襲い掛かる二メートル(上げ底)の巨漢! 「北○剛掌破ッ(本当は円空破)!!」 直撃すればただの人間に過ぎない犯人は木っ端微塵だったろうが、ラ○ウは僅かに狙いを逸らし、舞台をぶち抜いた。その衝撃で犯人は尻餅を突き、人質を放してしまう。その瞬間、人質の子供はスパイ○ーマンのワイヤーに巻かれ、あっという間に救出された。そして犯人には、空を飛ぶ一九〇センチの肉弾! タイ○ーマ○クのフライング・ボディー・アタック! 一発で犯人は吹っ飛んだ。 「ブガガッ…! て、テメェら…!!」 思った以上にタフな犯人はダイナマイトに着火しようとタイマーのスイッチを入れる。しかしその一瞬前、ミュー○ント○ートルの振るった刀がリード線をことごとく断ち切り、時計もタイマーも全てガシャガシャと音を立てて地に落ちた。 残る手段は、直接点火しかない! 犯人はライターに火を点した。しかし突如沸き起こった銃声がライターを弾き飛ばす。デ○ラー総統の仕業であった。 「ワタシは、オージョーギワの悪いものは嫌いなのだヨ、ヤ○トの諸君」 何が何だか解らない連中に武器を破壊され、最後の手段まで封じられ、絶望的な声を上げる犯人。 「何なんだテメエら! 一体なんなんだ!」 「…教えて欲しいか?」 スパイ○ーマンが子供を抱えたままするすると鉄骨から降りてくる。 「しかし、悪党に名乗る名などない!」 スパイ○ーマンの手首からワイヤーが飛び、強盗のリーダー格の胴を縛り上げる。更に反対側の手から射出したワイヤーで最初に《スパイダーネット》を食らわした犯人をも絡め取り、両手を大きくしごくと犯人はビターン!! と漫画的擬音を立てて鉢合わせ、そこでワイヤーにがんじがらめにされてしまった。 わあっと上がるどよめきと歓声。しかし、華やいだ空気もそこまでであった。たった今、この瞬間まで存在を忘れられていた武装警官が舞台に駆け上がり、犯人のみかヒーローたちにまで銃を突き付けたのである。 「ムッ!? 何の真似だ?」 「――やかましい! 両手を頭の後ろで組み、床に伏せろ!」 居丈高に叫ぶ武装警官。その台詞が龍麻に《本物》の警戒心を抱かせる。――が、武装警官が犯人に手錠を掛けるよりも早く、彼らの持っていた荷物を漁ったので、彼の誤解は継続してしまった。 「なるほど。警察を隠れ蓑に乱暴狼藉、賄賂を取り、あまつさえ子供にまで銃を向ける。――許さん!」 「黙れ! このオタクどもが!」 この瞬間、その罵声が届いた者の何人かの脳内で、確実に何かが切れる音が響いた。 しかし―― 「手を上げなさい! ぶっ放すわよ!」 突如割り込んできた美声――ハイヒールを打ち鳴らしつつ駆け付けてきたのは、額に汗を浮かせた、それが逆に美しさを際立たせている水色のスーツの女性、南雲警視であった。その背後には制服警官を引き連れた秋葉警部補が従っている。彼は右手に制服警官のものと思しいニューナンブを握り、左手で警察手帳を掲げていた。 龍麻たちは当然知らぬ事だが、このSATは銀行から奪われたリストの関係者の命令で出動したもので、リストの回収を最優先とされていた。そして強盗と、彼らを追う南雲たちと三つ巴の戦闘となり、そこが事もあろうに東京ドームの入り口だったので、強盗たちは逸早く人込みの中をここまで逃げてきたのであった。さすがの南雲も応援を待たねばならず、SATもまさか数千からの人込みの中で発砲する訳にも行かず、ここまでやって来てしまったのであった。 「下がってください! 皆さん! 道を空けて!」 手帳を掲げながら大声で叫ぶ秋葉警部補に、ようやく周囲の観客たちは、これがアトラクションでない事に思い当たった。するとこっちの銃を構えている連中は…? 「き…」 旋回した銃口――南雲を狙ったものだが――に、前列にいた女性の一人が悲鳴を上げようとした時の事である。 「――スパイ○ーネット!!」 一瞬の隙を突き、スパイ○ーマンのブレスレットからネットが飛んだ。 「ウオッ! 貴様ァァッッ!!」 仲間がネットに絡まり、蹴倒されたのを見て、残る四人の武装警官が銃をスパイ○ーマンに向けた。その瞬間―― 「エレ○トロ○・ファ○ヤァァァッッ!!」(本当は《落雷閃》) 先程は出番のなかった仮面○イダー・スト○ンガーが舞台を殴ると、そこから火花が武装警官たちに向かって走った。 「グギャァァァッッ!!」 多少は手加減したらしいスト○ンガーの電撃を浴び、狂おしい電撃ダンスを踊る武装警官。銃が暴発し、弾丸が子供たちに向かって飛ぶ! 「あぶな…!!」 思わず飛び出そうとした秋葉であったが…その前に赤と青、赤と黒、そして緑の色彩が飛び出した。そして―― ――ビシビシッ! バシン! 飛来した弾丸がスパイ○ーマンとスト○ンガー、ミュー○ント・ニン○ャタートルのスーツによって弾かれる。――龍麻の知り合いは見た目のみならず、そんな機能まで再現していたのであった。彼らのスーツの素材にはケプラーとアラミド繊維を貼り合わせたものが用いられ、特にスト○ンガーの鎧とミュー○ント・ニン○ャタートルの甲羅にはハード・ゲルと呼ばれる衝撃吸収素材を使用して、四五口径やマグナム、トカレフ弾に対しても完璧な防弾性能を備えていたのである。 「下らぬ真似を! ヒーローに銃弾など効かぬ! ――トウッ!」 スパイ○ーマンの声に、南雲の、秋葉の目が点になった。その特徴ある声に口調…スパイ○ーマンの中身を知った為である。 「ぼ、ボウヤ!?」 南雲の声が消えぬ内に、スパイ○ーマンが跳躍した。 素早く動く移動物体に対し、跳ね上がる銃口! しかし、スパイ○ーマンの手からワイヤーが飛ぶ方が遥かに早かった。 「うわァァァァッ!」 「ヒイィィッ!!」 一気に一〇メートル以上の高みに吊り上げられ、悲鳴を上げる武装警官たち。まるでミノムシのような珍妙なスタイル。政治家の不正を闇から闇へと葬り去る為にやってきた殺し屋の末路としては、あまりにも情けない姿であった。 そしてスパイ○ーマンはポケットから何かを取り出してさらさらと何か書くと、舞台上で転がっている銀行強盗と武装警官…の偽者に向けてそれを放った。 そこにあるのは、一枚のカード。それにはこう書かれていた。 ――この者、武装強盗団&賄賂警官 そこですかさず、アランがマイクを握る。マントを翻し、片手を上げて堂々の宣言。 「諸君! この場に居合わせる諸君! ヒーローたちの輝かしい勝利に拍手を!」 わあっと子供達が歓声を上げ、拍手が上がる。それにつられて大人たちや、何がなんだか判らぬままにコスプレイヤー達も拍手する。――ささくれ立っていた空気は一気に華やかなものになった。 「しかし! ヒーローたちには次の闘いが待っている! 我が盟友スパイ○ーマンよ。 未来ある子供達に手向けの一言を」 「…悪い奴に負けるな。正義を護る、強い子になれ。――さらばだ!」 やっと我に返った南雲と秋葉に敬礼を送り、観客をかき分けつつ本物の警官隊が舞台に殺到するのを尻目に、スパイ○ーマンはワイヤーをジェットコースターの鉄骨に射出し、観客の頭上を優美に飛び越えて行った。その派手な逃げッぷりに気を取られた警官隊は、スパイ○ーマンの仲間だったらしいヒーローたちもまた、見失ってしまっていた。 後に残された《本物の》銀行強盗犯を見て、秋葉がしみじみと呟いた。 「南雲警視。これは犯罪でしょうか?」 「…アタシに聞かないでよ。それにしてもボウヤ…弾けたわね」 そして他のコスプレイヤーたちは… 「コスプレに《本物》が出てくるのって反則だよな…?」 などと言ったとか言わなかったとか。さらに… 「かっこいい…。あんな凄いヒーローがいるなんて…!」 「お、俺ッちも負けてられないぜ!」 「そ、そうだなっ! 帰ったら早速特訓しないと!」 「「「練馬の平和は、俺たちが守る!!」」」 以上、今回の事件で格好いいところを見せられなかった練馬のヒーロー《コスモレンジャー》は夕日に向かって拳を振り上げて叫んだ。 「いや、実に愉快な一日であった」 「HA−HA−HA。楽しーネ」 先頭の二人は実に楽しそうで足取りも軽いが、その後に続く面々の顔は暗いものが多かった。特に、蓬莱寺京一と如月翡翠はほとんどゾンビである。 (男とキス…男とキス…! オトコとキス…!!) (亀…亀カメかめ…!) 今回のコスプレ初挑戦は、二人の心に多大なトラウマを与えたようだ。何事も嫌々やるよりは、いっそ楽しんでしまった方が得という見本は、雨紋と紫暮である。そして彼らは、自分たちが日本の暗部に関わる重大事件に一筋の光明を投げかけた事をまったく知らなかった。 「しかし、日本のイベントも捨てたものではないな。ただしあのような演出に実弾を使うとは、安全性の配慮が足りん。やはり、安全第一だ」 「ボクも驚いたネ。でもちょっとボクの見せ場が足りなかったのが残念ネ」 「うむ。次はプロの司会を頼むとしよう。不意の段取りミスにも備えられるようなプロを」 次…? この期に及んでまだ誤解している戦争馬鹿二人の会話に、全員が顔を見合わせる。 「た…龍麻…。その…次って…?」 「うん? 心配するな。インターバルは充分ある。冬コミは全員参加だ!」 「オーッ!」 テンション高く声を上げたのはアランだけで、あとの者はズ〜ンと重い空気に潰れた。 次? 冬コミ? このコスプレをまたやれと…? 「冗談…じゃねェよ…!」 プルプルと震えながら木刀を握り締める京一。 「ふ、ふふふ…亀…カメ…!」 もはや顔のディティールすら壊れかかっている如月。 「いかん…。このままでは本当にこっちの世界に引きずり込まれてしまう…」 いつの間にか催眠術までかけられてしまっていた醍醐。 そんな不穏な空気を、我らが真神のスパイ○ーマン(新ニックネーム)が見逃す筈はなかった。 「そこの三人。何を暗い顔をしているのだ? さあ! 帰ったら今日のおさらいだ!」 この一言で、京一、如月の二人が臨界点を突破した。 「でりゃあああっっ!!」 「邪妖滅殺ッ!!」 もはや問答無用とばかりに我らが指揮官に襲い掛かる京一と如月。 「おおっ!?」 「ワアッ! 何するネ!?」 すかさずスパイ○ーネットを放つ龍麻であったが、如月はその卓越した反射神経でかわしてのける。京一は木刀一閃、ネットを撃墜してのけた。 「二度も同じ手を喰らうか!」 「ぬうッ! 行け! 《ミ○ラス》!」 ポケットの中に納めたカセットのスイッチを入れる。途端に流れ出したのは《タイ○ーマ○ク》の主題歌。 「た、龍麻! …オオオオオオォッッ!!」 テーマソングが聞こえた瞬間、ポケットから取り出したマスクをかぶって《変身》する醍醐。 「おわあッ! 龍麻サン! それ、やばいって!」 「こ、これでは収拾がつかんぞ!」 雨紋と紫暮が止めにかかるが、既にタイミングは逸している。なし崩し的に彼ら二人もこの馬鹿馬鹿しいヒーロー対決に巻き込まれる。彼ら《魔人》たちの対決はその後、一時間にも及んだ。最後に凱歌を上げたのは、スパイ○ーマンであったとも、タイ○ーマ○クだったとも言われている。 後日談。 その日、ヒーローショーを見た子供たちは次の週もイベントがあるものと思い込み、後楽園に連れて行ってくれと親にせがみ、テレビ○京には《スパイ○ーマン》の再放送を求める投書が殺到したという。また、後楽園遊園地側は、その日スパイ○ーマンに扮した人物とその仲間をしばらくの間必死に探したという。もちろん、イベントを毎週やって貰うためである。 なお、警視庁では、銀行強盗事件によって発覚した大規模なマネーロンダリングに関して捜査を開始、警察内部でも何人かの職員を更迭、あるいは懲戒免職に処した。しかしリストに名を連ねていたと言われる神城警視正は注意も更迭も受けず、その地位に座り続けていたが、南雲警視の姿にはやけにビクビクするようになったという。それに前後して、都内の倉庫から多数の武器弾薬が押収され、陣頭指揮に当たった若林警視がライバルと目されている南雲警視にパフェを奢らされているのを見たものがいたとかいないとか…。 ――涼しい風が吹くようになった、晩夏の日の出来事であった。 第九話外伝 ヒーロー(?)が一杯 おしまい 目次に戻る コンテンツに戻る |